第10章 声に出さないまま
私が作ると倍以上の時間がかかるし。顎に手を当てて唸るひまりの言葉に、ありさの目の色が変わった
「いやいやいや、ちょっと待て。じゃぁ、もしかして王子の分……」
あたし等で作り直しってことか?
クラスメイト達の目が鋭く細められる。
「ジンクスだか、永遠の愛だか知らねーが人様のもん盗んでまで願う事じゃねーだろうがっ。あいつらふざけんなぁあっ」
「う、うおちゃん、落ち着いてください」
「奪還合戦じゃぁあ!よっしゃ行くぞ野郎どもっ!花島と透も来いっ!!」
「……そうね、やられっぱなしは、癪だわ…」
「いや、あの、作り直した方が早いやも……」
「ひまりはそこで残りのやつ守っとけ!」
ノリノリなありさと愉快なクラスメイト達と共に、ノリ気では無い透が引きずられるように教室を出て行く。その後ろを、片手に黒百合を携えた咲が、不敵な笑みを見せたままついていった。
騒がしかった空間にひまりと夾の二人が残され、シンと静まり返る。ポカンと口を開けたままの夾の顔を見て、ひまりは思わず吹き出した。
「……ンだよ?」
「え?ふふっ、みんな元気だなぁって」
ふやけたような顔で笑い、手伝うよ。と隣でフワラーを開かせる夾に手を伸ばす。
その小さな手に一旦目を向け、手渡したのは開く前の束ではなく、綺麗な花になったソレだった。
ひまりは首を傾ける。
「じゃなくて。私でも微力ながら戦力にはなるでしょ。夾の分手伝うよって」
「どーせアイツらが取り返して来ンだろ。なら作る必要ねぇし。あー、だから、ソレ……やる」
手のひらの上でカサリと音を鳴らした桃色。匂いがする筈もないのに、それに顔を近づけて、ふふっとまた顔をふやかせる。
ありがとう、花から視線を外さずに言う。火照った頬を見られたくなかった。
見られたくなかったのは彼も同じだったようで、わざとらしく首を掻きながらそっぽを向いている。
不確かなもので未来が約束されるなら、人生はもっと豊かで不安もなにもない、幸せなものになんだろう。
花びらを開きながら込めた祈りを、易々と聞き入れてくれる程、世の中はきっと甘くない。
夾はチラリとひまりを見る。大切そうに両手で花を持って、視線に気が付いて、僅かに染まる頬をそのままにくしゃりと笑う。
彼女の笑顔に桃色がよく映えていた。