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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


ひまりが完成させることが出来たペーパーフラワーは二つ。
個人に課せられたノルマには程遠かったが、夾、潑春、そして側で応援していた透や紅葉の協力もあり、作り終える事が出来たのだ。

自分のクラスの準備を抜けてきていたらしい紅葉と潑春。ペーパーフラワーの完成を見届けてから、満足そうに一年生の教室へと戻っていった。

やっと終わったぁ。とノルマから解放され、凝り固まった体を伸ばしていたひまり達だったが、ここで問題が発生する。
生徒会へ出向く前に由希が作っていた分のペーパーフラワーが、ごっそり姿を消したのだ。
いや、消したのではなく強奪された。学園の王子様と称される由希。そのファンクラブ、通称"プリ・ユキ"のメンバーがフラワーを抱えて飛び出していった姿を、クラスメイトの何人もが目撃していた。

海原高校にはあるジンクスが、生徒の間で言い伝えられている。
作ったペーパーフラワーを想い人にプレゼントし、受け取ってもらえると、その二人は永遠の愛が約束されるというものだ。
確か、盗むのではなくプレゼントされる。という条件だった筈だが、おまじない等という不確かなものを愛してやまない女子高生にとっては、ペーパーフラワーを手元に置いておくということに重点を置いたのだろう。


「ほんっと王子の人気は凄ェのな」


呆れた目で教室の外を眺めていたありさは、我関せずと言わんばかりに大欠伸を披露している。
夾に「お前が代わりに王子の分作っとけよ」と指を指すと、指名された夾は「ふざけんな。俺の分はもうとっくに仕上げたんだよ」と言いかけて瞠目した。

教壇の上に置いておいた夾の分のフラワーも姿を消していたのだ。


「キョンのも盗られてんじゃん」

「は!?何でだよっ」

「アタシが知るかよ。見張ってなかったお前が悪いだろー」


ほらほら文句言ってねぇでさっさと作り直せよ。揶揄したようなありさの態度に、青筋を張り付けながら文句を垂れている。
それでも材料のペーパーを手に、席に座ったところを見るとちゃんと作り直す気はあるようだった。

その姿にくすりと笑いながら、ひまりは「でもさぁ」と我関せずなありさ達に目を向けた。


「夾が自分の分やってたら、間に合わなくない?由希は生徒会忙しいし……ってかそもそもこの件に関しては、由希は悪くないから、作り直しさせるのも可哀想だしなぁ」
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