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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


「んで?お前はソレ、何に使うつもりだよ?」


むしろ、何故今まで誰も突っ込まなかったのかと不思議になる。いや、敢えて突っ込まなかったのか。
慄いたクラスメイト達の視線が夾に集まった。
さすがキョン、勇気あるな。誰も聞けなかったことをあんなにも簡単にっ。いやでも知らない方がいいってことが世の中には……。と、小さな声でコソコソと話し始めた。

夾は、威嚇するひまりの机に置いてある、まだ束になったままのフラワーをひとつ手に取り、丁寧に広げながら咲に不審な目を向けている。


「触るな!アホ!オレンジ頭!」

「だ、駄目ですひまりさん!今が勝負所ですよ!」

「ほらほら破れちゃう!ちゃんと見てひまりーっ」


あぁっ、折角うまくいきそうだったのにっ。いや、まだ大丈夫です、集中しましょうっ。クラスメイト達が抱く緊張感に包まれた空気等、まるで異世界だとでも言わんばかりにひまり達は騒いでいる。
僅かにではあるが、心が和む。
頑張れ草摩、不器用だけどお前ならできる。本田達のサポートがあれば大丈夫だ。そんな暖色の空気を纏い始めた所で、一気に現実に引き戻される。


「あら……草摩夾は、黒百合はお好きではなくて?」


クラスメイトの中には、ヒッと声を出したものも居たかもしれない。
指と指の間に釘を落とされたような戦慄が、背筋に走る。
艶のある黒い髪、底が見えぬような真っ黒な瞳に、黒い爪先。彼女が持つ独特な雰囲気を、黒い物達が助長している。そしてその手に持たれている黒。ペーパーで作られた黒百合だった。

卒業式で使うペーパーフラワーの色は主にピンク。卒業時期に合わせて桜の色をイメージしたものだ。
何故、黒百合を製作しているのか。賢いクラスメイトはわざわざ首を突っ込まなかった。


「好き嫌いの問題じゃねェだろ」

「先輩方には……大変お世話になったから…」

「あ?お前年上と関わりなんてなかっただろ」

「透君と、ひまりがね……。そうそう、黒百合の花言葉、ご存知?」


あ?怪訝な顔をする夾。クラスメイト達は顔を引き攣らせ、耳を塞ぐ者までいた。聞いてはいけない。危機を察知する本能が警鐘を鳴らす。


「……呪い、と復讐」


ふふっ。黒百合が弧を描く口元を隠していた。
夾は、げぇ。と顔を歪める。モブはそれぞれ身を寄せ合い、ガタガタと震えていた。
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