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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


潑春がひまりの手から塊と化したフラワーを奪い、じっくりと観察し始める。「逆に、芸術的」褒めているのか、貶しているのか。
所々が破け歪に丸められたそれは、花というよりは地面に落ちて割れた毬栗のようだ。
ほぉ……等と声を上げながらいろいろな角度から毬栗を見ている。

貶されていると判断したひまりは、白髪を睨みつけ奪い取ろうとするが、手を真上に伸ばされてしまっては届かない。

既視感。前回もこういう状況があった。彼の手に飛び掛かった勢いを利用され、そのまま変身させられたことは、まだ記憶に新しい。

二度も牛の思うツボにハマってたまるか。ひまりは鼻の頭に皺を寄せながらベェ、と憎たらしく舌を出し、新しいペーパーを取って夾の隣の席に座った。
相手にして貰えなかった潑春は、少々気鬱げに肩を竦める。持っていたペーパーフラワーの残骸をボールに見立て、上に投げてはキャッチし、を繰り返しながら教室内をぐるりと見回した。

この場にいる筈の人物の姿が見えず、黙々とペーパーフワラーの製作を続けている夾に問う。


「由希は?」

「知るか」


秒で終了する会話。視線すら寄越さない。素っ気ない返事を返した夾は、丁寧に花びらを開かせていた。その性格からは想像し難いが、手先が器用なのだ。

課せられたノルマを達成したのか、作り終えたペーパーフラワーを机の上に置き、首を左右に倒した。パキ、パキと骨が鳴る。


「王子なら生徒会行ったぞ。ってか、手伝いに来たんならダベってねーで働け働け」


長い金髪を頸辺りで纏めているありさが、重ね折ったペーパーを真ん中で縛った物を、数個潑春に突き出す。
俺はひまりの顔見にきただけなんだけど。そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
教壇に置かれている籠の中に、作ったペーパーフラワーを入れている夾に視線を向けてから、突き出されたペーパーを受け取った。


「おっまえ、マジで下手だな」


夾は、覚束ない手で花びらを開いていくひまりを揶揄した。
幾重にも重なる桃色のペーパーは、先ほどの毬栗ほど異形な物にはなっておらず、破れることもなく大分見栄えは良くなっている。
だがまぁ、歪ではある。

製作者は桃色に落としていた瞳を、鋭い半眼にしてオレンジに向ける。邪魔するなら散れ。語らずにそう言った。
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