第10章 声に出さないまま
助けを求めるように、宙を掻きながら涙を零し始める慊人を、はとりが前から抱き締めなおした。
「落ち着け慊人。大丈夫だ……落ち着け」
「はと、り……あいつ、あいつ酷い事ばっかり……っ」
縋りつく。はとりの衣服を握りしめ涙を零し続ける。
幼子のように泣く少女の背を、はとりは優しく撫でてやった。
あの女に勝負を吹っ掛けられた。
そんなにも憐れな妄想を信じているのなら、勝負しましょう、と。
もしも十二支がお前の所に戻ってこなかったら、私にひれ伏して「貴女が正しかった」と詫びを入れなさい。そして草摩を出てって頂戴。
勝負にすらならないと思った。外で生活していようが、十二支の絆は本物で、最後には彼等は必ず戻ってくると。
僕無しでは生きていけないのだと、信じて疑わなかった。
ひまりが戻って来た時に確信したんだ。やはり絆は本物だと。朽ちてなんかいないのだと。
解けてしまった紅野も、結局は僕の元から離れられないのだと。
それなのに。それなのに。
どうして崩れていくの?
置いていかないで。側にいて。ひとりにしないで。懇願しながら泣き続ける少女が落ち着くまで、はとりはずっと抱き締めていた。
まだ底冷えの厳しい二月中旬の放課後。
ひまり達は教室に残り、卒業式の飾り付けに使うペーパーフラワーを、せっせと作っていた。
「枯れ木に花をタムケルのよーっ」
手先が不器用なひまりが、ペーパーフラワーをただの紙の塊に変えてしまい、肩を落としていたのを透が慰めている時だった。
金髪の青年が、その背丈に似合わぬ小さなウサギのリュックを背負い教室内に声を響かせる。
その後ろから白髪の青年が、頭を掻きつつ「それ言うなら、咲かせましょう」と言葉の訂正を小さく呟くきながら後をついてくる。
「あれ?紅葉に春?どうしたの?」
「ブキヨーなひまりがペーパーフラワーを作るって聞いたからね、手伝いに来たんだよーっ」
「…予想通りで、草」
潑春の言葉に心の臓を貫かれ、ひまりはまたガクリと肩を落とす。
難しいんだよ。ビリってさぁ、なるしさぁ。手のひらにある塊を見つめ落ち込みが酷くなる。
そんなひまりを、透は焦りながら「大丈夫ですよ!もう一度挑戦しましょうっ」と慰め、紅葉はケラケラと笑いながら肩を叩いていた。