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ALIVE【果物籠】

第3章 とけていく





ドライヤーで乾かした髪にオイルをつけながら自室に戻ると、髪を逆撫でて怒る夾。

「え。まだやってたの?」


何度目か分からないババ抜きが終わった所なのだろう。
夾の手には1枚のトランプが持たれていて、それは今回も負けだったことを表している。

「もう1回勝負だ!次こそ負けねェ!」


何度かやったババ抜きに全て完敗するという、私の知っている人達の中ではトップレベルの弱さを発揮している所を見ると、何度やっても勝てる確率はゼロ。
もうやめとけば良いのに…という更に彼を怒らせるであろう言葉は発さずに心の中だけで呟いた。


「お前は顔に出過ぎるんだよ。何回やっても結果は見えてる」

「ンだと!クソねずみ!澄ました顔しやがって!勝負しろ!」


また始まった言い合いに肩をすくめてから、2人を避けて潑春の横に腰掛ける。


「何回やったの?」

「5回。全部夾の1人負け」


ジョーカーを取ろうとした時に、口角が上がって眉がピクリと動くあのクセを何とかしないことには、それが例え子ども相手でも勝つことは難しい…いや、無理デショ。


チラリと紅葉を見るとベッドに体を預けてウトウトとしていた。

ひまりともっと遊びたい!話したい!だから今日は泊まるんだ!!

と紫呉に頼み込んで決まった紅葉と潑春のお泊まり会だったのに、はしゃぎ疲れて一番最初に寝てしまう子どもっぽさが何とも愛おしい。


とはいえ時計は11時を少し過ぎたところを指していて、正直私も少し眠くなってきていた。


いまだに勝負しろと由希に吹っ掛けている夾に近付きポンポンと肩を叩いて、寝ている紅葉を指差した。


「もう紅葉寝ちゃってるよ。紅葉、夾の部屋で寝るんでしょ?今日はもうお開きにしよー」

「じゃあ…俺、風呂入ろ」

「ちょ、待て!逃げんな春!!」


どうしても勝ちたい夾は引き止めようとするが、由希はトランプを片付け始め、ひまりは紅葉を起こし始める"お開き"の雰囲気に舌打ちをして頭をガシガシと掻いた。


「ボク、ひまりと寝るー…」

「おめぇはこっちだ」

目をこすりながら駄々をこね始める紅葉を、夾が首根っこを掴んで引きずりながら出て行き、その後を追うように潑春が「おやすみ」と出ていくが、由希は立ち上がる様子はなくローテーブルの前に座ったままだった。



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