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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま




報われない、恋でいいと思った。
好きだと気付いて、何度も諦めようと足掻いて、歯止めが効かなくて。
手を繋いだことも、キスをしたことも知らないふりをして。お互い気付かないふりをして。
それでも彼の運命を変えたのが自分なら。彼の人生に関われたのなら。何もかもを失くすことになったとしても、それでもいいって、思った。

光が見えた。報われる光。その瞬間、欲が殻を蹴破って顔を出して。
見えたキラキラと輝く光が掴める保障もなくて。時間もないのに。待つことしかできなくて。

殻の中に戻ろうにも、一度壊れたソレは戻せない。
あぁ、どうして希望なんて見えてしまったの。縋ってしまったの。


「ひまりっ!!!」


ひまりは唇を噛み締め、依鈴の声に見向きもせずに居間を出て行く。
出て行くひまりの背を見送ることしか出来ない。彼女の願いをどうにかしてやる事等出来ないから。
猫憑きの運命に皆、目を背けていた。
物の怪憑きとして産まれた不運。その運命に藻掻き苦しみ、それでも猫憑きよりかはマシだと。醜い姿を持ち、幽閉という運命を産まれ落ちた瞬間から背負わされている猫憑きよりかはマシなんだと、蔑む汚い心を持っていたことを否定できないから。
動けなかった。


「失恋、トリオ」

「お前はほんと、空気読んでるんだか読んでないんだか」


いつもの調子を崩さない潑春に、由希が肩を竦めた。
二人のやりとりを睨みつけた依鈴は、よろつきながら奥の部屋へと向かおうとする。
差し出した由希の手を払いのけ、短くなった黒髪を揺らしてよろよろと歩いて行った。


「分かってはいたけど、再認識させられるとキツいね。やっぱり」

「…それは、ひまりの気持ち?それとも、夾の運命に対して?」


潑春の問いかけに、由希は微苦笑だけを浮かべた。
ツケ、回ってきたって感じ。白髪の少年はその白い髪を無造作に掻く。
隣に立つ由希は、彼の足元に視線を向け、もう一度白髪を見ると呆れたようにため息を吐いた。


「…そろそろ服、着たら?」

「いつ、ツッコミくれるかな、って」

「待つな、すぐ着ろ」


腕を組んだ由希が、彼の足元に広がる衣服を顎で指した。
欠伸を噛み潰し、気怠げに衣服を拾い袖を通す。

いつ解放されると思う?潑春が聞いた。
由希は僅かに肩を竦め、また微苦笑を浮かべるに留めた。
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