第10章 声に出さないまま
希望の光が見えた気がした。
呪いを解く方法があるのなら、賭け等しなくても、夾も自分自身も"幽閉"の運命からきっと解き放たれるのだ。
未来が開ける。自由になれる。"普通の人間"として暮らしていける。
そうすれば夾への想いだって。
「アタシが解けたのは…最近の話だ。だからひまりが変身しなかったのとは、関係ない。何の前触れも無く、本当に…急だった。パッとアタシの中の気配が消えて。どうやって解けたか…わからない」
腰に回していた手に力が入らなくなる。
突然目の前に現れた光を掴もうと手を伸ばしたのに、実際はその光は余りにも遠く、とても自身の腕を伸ばしたくらいじゃ届かないほどに。見えているのに、手のひらは空気を掴むだけだった。
落胆した様子のひまりに、依鈴は「でもきっと、近いうちに解けるから。きっと長くは続かないから」だから安心して、と下がる肩に手を置いた。
「正直、勝手に解けてくれるなら、アタシはそれを待つのが得策、だと思う。解放されて、対峙して、初めて分かった。慊人は危険だ」
あの華奢な体の奥深くに根付く、無垢な残酷さが恐ろしい。
ただの子どもだ。我儘を連ね、駄々を捏ねる幼い子ども。
だが、草摩当主としての権力。欲深さは子どものようなのに、善悪の理性の部分が乏しいが故に惨酷な行為を平然とやってのけてしまう人間性が恐ろしい。
何もせず、ただ解放の時を待つのが一番安全だ。
「だからお前らも変に慊人を刺激するな。勝手な行動は、するな」
依鈴の睨みに由希と、人の姿に戻った潑春が肯定を示す。
「まぁ、勝手にパッ、と解けてくれんなら…俺もそれ、賛成」
「そうだよね。下手に動いて、今回のリンのみたいなことになるかも」「いつなの?」
話がまとまりかけた時にひまりが横槍を入れた。
ひまりの幽閉の事実を知っている依鈴は、卒業までに解けなかったら一緒に逃げよう、と彼女にだけ聞こえる声で言ったが、
違う!そうじゃないの!と悲痛な声を上げて顔を歪ませる。
「春までに…夾が解けなきゃ…」
「…夾…?」
まさかひまり。依鈴が彼女の想いを察して口を閉じた。唇を噛んだ。
報われない恋をした。それでも彼女が幸せなら、他の誰かと恋に落ちたって構わないと、思っていた。
まさかその相手が猫憑きだなんて、そんな運命あるだろうか。