第3章 とけていく
「でも結構ギリギリだったよー。由希、紅葉の吊るし決定してすぐくらいに気付いてたでしょ?」
新しく開けたチョコパイを由希に差し出しながらひまりが言うと
「完全に気付いたのは俺が殺されてからだよ」と受け取りながら返す。
「ほら!話し合いの時間がもうちょっと長かったらアウトだったよ。それに、春が勝たせてくれたようなもんだし。春の"占い師"としての説得力がなかったら、春が吊るされて、紅葉が生き残って、夾が由希を占ってーってなって、私は終わりだったよ」
自分もチョコパイを頬張ると、その甘さで幸せそうに笑うひまり。
人狼ゲームで完全勝利した人間とは思えない、無邪気なその姿に由希の頬が緩んだ。
「ねぇ!ボクも気になったんだけど、キョーはどうして最後の占いをユキにしたのー?」
りんごジュースをコップに注ぎながら紅葉が疑問を投げかける。
「あ?勝ち確だって思ったから、春の望み通り、糞ネズミを占ってやろうって…それだけだよ」
「最後の最後まで乗せられて…アホすぎる」
ため息混じりに由希が呟くと、お前も騙されてただろうが!と怒鳴りつけるが、お前よりマシだ。と言い合いを始めた。
「ひまり、それちょーだい」
どさくさに紛れて潑春がひまりの持っている、食べかけのチョコパイを横から食べると言い合いをしていた2人の怒りの矛先が潑春に向く。
「ユキもキョーもヤキモツやいてるのねー!」
「ブフッッ」
紅葉の言い間違いにひまりが盛大に吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。
「ひまり汚い…。紅葉、ヤキモ"チ"」
「だって…ヤキモツって…無理ッ…モツ焼いても全然可愛くない…ふふふっ…ダメこれッ…ツボ入った…ッ」
潑春が冷静に言い間違いを直すが、ひまりは笑いが収まらず机に突っ伏して笑い続けた。
こんなに楽しくて、心から笑えて…
私もこのまま、みんなの"仲間"に……
「女の子って怖いねぇ?はーさん」
「ひまりは結構頭がキレるタイプだとは思ってたが…予想以上だな……お前の企みがバレないように気をつけるんだな」
「ご忠告どーも。でも、僕の"野望"は諦めませんけどね」
少し離れたところで小声で話していた大人組の話は、騒がしさに掻き消されて誰の耳にも届くことはなかった。