第10章 声に出さないまま
「慊人さんを見れば分かる通り、神様はこの宴に大層御執心だ。神様にとっちゃぁ何百年も続く絆を、そりゃぁ手放したくは無いよねぇ?ひとりぼっちになってしまうから」
じゃぁ…。言いかけて辞めた。言葉にするのが恐ろしくて琥珀色の瞳を揺らす。
もしも紫呉の言っている通りなら。
この宴の幕引きにひまりという存在が必要だったというのなら。
導き出てしまった答えに唇が震えた。
「ひまりの存在は希望だよ。僕たちにとっても。神様にとってもね。僕等は解放されて、その後のいけに」
「やめろ!!」
机に拳を突き立て、言葉を遮るために大きな音を鳴らした。
一度は言葉を止めたものの、紫呉はまたさらに続け始める。
「…ひまりが変身するのは十二支側が彼女の存在を認めてないからじゃない。"彼女が十二支を受け入れてない"んだ。潜在意識的にね。だから抱き合っても変身するのはひまりだけ。…何があったかは知らないけど、リンの事は受け入れたんだろうねぇ」
「……尚更分かンねぇな。慊人に嫌われる理由が。逆だろ。お前が言ってることが本当なら気に入られんだろ。ひまりは」
「十二支からみればただただ明るい希望でしかないけど、言い方を変えれば崩壊の象徴だよ?そりゃ神様から見れば目障りでしょ。でも"その後"の彼女の役割も潜在的に理解してるから何がなんでも手放したくない…。神様が僕らの中で一番依存している相手は、恐らくひまりだろうね。そして一番縛り付けられてるのもひまり」
内容にはそぐわぬ、まるで喜劇映画でも見ているかのような表情に、夾の顔の中心にシワが寄り始める。
砕けそうなほどに歯噛みし、拳を震わせる。
目の前の、常に煙に巻かれたような男の言う事が事実なら、そんな理不尽があるだろうか?
俺達は解放されて自由になって万々歳。その後の後処理は全てひまりに任せてだと?
"解放"に対しての喜び等微塵も感じられなかった。
「夾君、何か勘違いしてるみたいだけどさぁ?」
ハッと嘲笑する紫呉をギロリと睨みつけた。
「"異端"という存在を生み出したのは、十二支…、僕達だよ。何の運命か、絶命の危機を鼠が救ったみたいだけど。"アレ"が無くても、彼女は贄としての役割を持って産まれてたよ」
宴を終わらせる為には必要だったんだよ。