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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


いや、それが一番筋が通っていて辻褄が合うだろ。由希の反論に、やはり首を横に振った。


「リンが呪いを解く方法を必死で探してるの、その証拠。解けるって分かってるなら、事を荒立てずに"その時"を待つよ、リンは」


感情的になる部分も多いけど馬鹿じゃない。呪いを解く方法を色々と嗅ぎまわってそれが慊人にバレて監禁される。なんて可能性だって無きにしも非ずだし。潑春はそのような事を話す途中で、目を見開いて言葉を詰まらせた。
まさか?潑春と由希の脳裏にある可能性が過り、戦慄いた視線がぶつかる。
予感に表情を強張らせ、どちらかがハッと息を吐き出した瞬間が合図だったかのように立ち上がって走り出す。憶測であってくれと願いながら。

着替えを済ませたひまりが、玄関から飛び出した二人の背に声をかけたが届かなかった。
ただ事では無さそうな雰囲気に、表情と体が固まったまま動かせない。
ようやっと動かせた時には、既に彼等の姿は無く、ひまりは底知れぬ不安に、玄関先で立ち竦んだ。

何か嫌な予感がする。
この"嫌な予感"はよく当たる。恐ろしい程に。

確か玄関を出てすぐ左に曲がって行った。ひまりはただひとつ思いつく、この先にある彼らの行き先に検討をつけた。
震える足に力を込める。大丈夫、今回は当たらない。大丈夫。
祈るように心の中で言葉を繰り返し、唇を噛み締めて地を蹴る。
全身に鉛が埋め込まれているようで、眉根を寄せた。







「あっれー?夾君帰って来てたの?ひまりは?由希君は?」


コタツに半身を埋め、座布団を折って枕代わりにしている夾は、気怠げに眉を寄せながら僅かに頭をあげた。
知らねぇよ。師匠ンとこだろ。ぶっきらぼうに答え、再度座布団に頭を埋める。
紫呉はふーん、と不機嫌そうに転がる猫に数秒視線をやってから顎に手を当てる。
ワザとらしい仕草だった。


「そういえば。慊人さんに呼ばれたんだって?何、話したの?慊人さん、機嫌悪かったでしょ?」

「…お前、ほんっと良い性格してんな」

「いやぁ、それ程でも」

「褒めてねぇ」


舌打ちをする夾に、紫呉はベタな笑顔を貼り付けていた。
上辺だけのそれに片目だけを半眼にし、呆れと諦めを足して割ったようなため息を盛大に吐いて上半身を起こした。
胡座をかいた膝に肘を置き、飄々としている彼をジッと見据えた。
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