第1章 宴の始まり
「……ねぇ紫呉。お前が拾ってきたアレ。いったい何処にいたの?何してたの?」
机に突っ伏したまま気怠そうに視線だけを紫呉に向ける。
「小さなアパートに1人で暮らしてたみたいですよ」
「1人で?アレの母親はどうしたの?」
慊人は身体を起こし紫呉に向けて怪訝な顔をする。
「1年前に過労で亡くなったそうですよ。
で、住んでたアパートが火事になって放心状態だった所を僕が拾ってきました。」
その言葉に一瞬目を見開いた後、お腹を抱えて再び机に突っ伏した。
「くくっ…あははっ…アレはほんと…っ…傑作だねっ…あははっ」
肩を震わせながら笑い続ける慊人を
口角を上げたまま見つめ続ける。
一通り笑い終えるとまた身体を起こした
「結局アレはいつも選ばれるんだ。そういう運命なんだよ。僕のそばからはなれることが出来ず、自分が産まれたことを後悔しながら生きるしかないんだよ。そう思わない…?紫呉?」
ええ、仰るとおりです。と返すとゆっくり隣に腰掛け人差し指の背で慊人の頬を優しく撫でる
「ところで慊人さん。ひとつ提案があるのですがいかがでしょう?」
頬を撫で続ける声音は優しいが、その表情は何を考えているのか分からない笑みを浮かべていた。
「……なに?」
怪訝な顔をしてその指を払い除ける。
おや、つれないですね。とわざとらしく手をヒラヒラさせると慊人に向き直り、少しの間を置いて話し始めた。
「全くお前は。また何を企んでいる」
部屋を出ると壁に背中を預け、腕組みをしたはとりに声をかけられる。
「あら、いやだっ!はーさんったら盗み聞き?!」
小指を立てて、きゃー!えっちー!とふざけ出す紫呉にハァとため息を吐いてから慊人の診察の時間だ。と返す
「まあ、僕はいつも自分のことしか考えてませんよ?」
先程のふざけた表情とは一変し不敵な笑みを浮かべると
「あの神様も必死だね。絆に縋り付くのに」
くっくっと喉を鳴らして笑い出す。
「……ほどほどにしとけよ」
慊人の部屋に入っていくはとりを見つめ
「それは…どうでしょう…?」
口角を上げたままその場を後にした。