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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


ポツンとど真ん中に立つ街頭が、たったひとつで公園全体を照らしている。
昼間は遊ぶ子供たちや、それを見守る親たちの井戸端会議で賑やかだが、今はベンチに座るひまりの"あ"と"うわ"を合わせたような何とも言葉では説明しづらい音を、小刻みに震える体から発している声だけが響いている。

潑春は自身の両手にある熱々のカップ麺に視線を落として暫く見ていた。
隣で壊れた洗濯機のように震え唸り声を出すひまりに、これを渡しても良いものなのだろうか、と考えながらその時のイメージを脳内に作り出す。

ガクブルしているひまりにカップ麺を渡す。
震える手の中で暴れ、カップから外の世界へと飛び出す光に反射してキラキラ輝く熱々スープと蕎麦、そしてマヌケ面で焦るひまり。

潑春の瞳にあった迷いの色は既に消えていた。
カップ麺をひとつひまりへと手渡す。勿論スマホも準備して。


「ありがとーいただきまーす」


カップ麺から立ち昇る香りを楽しんでから、火傷しないようにスープを啜る。
潑春はあれ?と首を傾げた。イメージしていた物とは程遠い光景に、録画中のスマホ画面を見ながら肩を竦め、停止ボタンを押そうと指を添えた時。


「はあーっ!滲みるぅっ!」


スープを喉に通したひまりが、寒さで強張らせていた表情をへにゃりと柔らかくしてスープを見つめていた。
もう一度スープを飲み、崩れた表情のままハァと吐き出した息が立ち昇る湯気と重なる。


「…ん、これはこれで、いい」

「何が?ってかまた撮ってたの?」


録画停止のポロンという音に、目を細めて画面を見つめる潑春を呆れたような半眼で見る。
彼の顔を照らす小さな液晶の中のフォルダにまともな写真や動画があるのか疑問ではあるが、パンドラの箱を開く勇気はないので見せてと言うつもりはない。


「ヤバ…あと5分で、年明ける」

「うっそ!?年越しながら蕎麦になっちゃうじゃん!」


途端に食事のスピードを上げる。隣でパキッと割り箸を割る音が聞こえたのと同時に「あ…」と少し落胆したような声を上げていた。
だっさ、失敗したの?ぷぷぷ。と揶揄うのは心の中だけにして、年越しながら蕎麦を回避するべく食べることに集中する。
潑春は平然とした顔で斜めに割れた割り箸を手に、熱さを感じていないのか大量の蕎麦を口に含ませていた。
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