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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


街路灯だけの薄暗さに慣れていた目は、コンビニの明るすぎる照明に僅かに目を細めたものの、急に視界が開けたような感覚に不思議な安堵感があった。
昼間以上に店内を明るくしている理由は、明るさを求める人間の心理を利用していると聞いたことがあるが、こういう事なのかな?とひまりは頭に浮かべながら店内を見渡す。

客は数人程度。

雑誌コーナーで立ち読みしている若い男性と、お菓子コーナーでキャッキャと騒ぎながら籠に商品を放り込んでいくカップル。
潑春とひまりが入店してすぐに入ってきた中年の男性は真っ直ぐにレジに向かい、店員からタバコを一箱受け取るとポケットから取り出した小銭を置いて颯爽と店を出て行った。

そんな中で潑春が寄り道をせずに向かったのはカップ麺がズラっと並んでいる棚。心なしか普段よりも蕎麦率が高いその棚の前で彼はしゃがみ、適当にも見える様で商品を二つを重ねて腕に抱えて立ち上がる。

あ、なるほど。何の説明も無かった潑春の行動の意味が分かり、「年越し蕎麦!」と人差し指を立てると軽く腕を惹かれ引き寄せられる。
直後、籠いっぱいに酒やらお菓子やらを詰め込んだカップルが後ろを通り過ぎていった。


「せーかい」


潑春はパッと手を離し、よくよく見ていないと分からない程度に口端を上げてスタスタと歩いていく。

今度はレジ横のホットドリンクコーナー。

お茶でいい?と訊く潑春に首を縦に振ると、器用に二本のお茶のキャップ部分を掴んでそのままレジへ。

ひまりは潑春の左側からその横顔を見上げる。
ピアスごと千切られた耳は治っていたが、線が入り僅かにひしゃげていた。
もう同じ場所にピアスホールは作れないだろう。知らぬ間に眉がハの字を描く。

会計が終わった潑春は電気ポットが置いてあるテーブルで買ったばかりのカップ麺の封を開け始める。
このまま藉真のところへ帰って食べるのだと思っていたひまりは、手際よく準備を進める彼に「ここで作るの?!」と驚きの声をあげるが「うん」とひまりとは温度差があるテンションで返事をした。


「それはひまりが持って」


お湯を入れたカップ麺二つを両手に持ち、袋に入ったお茶は頼まれたひまりが持って、既にドアから出て行った大きな背中を小走りで追いかける。
チラリと目に止まった時計の長い針は九を指していた。
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