第10章 声に出さないまま
「特に大事な話とかじゃ、ないけど…ってかあれ?春…宴会は?」
「ん?…抜け出してきた。慊人、ご乱心で中止」
ふわぁ、と大口を開けて欠伸をする潑春にええ!?と驚いたひまりが机の裏で膝をぶつけ悶絶している。
大丈夫かい?と眉尻を下げて笑う藉真が、今の衝撃で溢れたお茶を拭きながら「夾達は?」と潑春に問うた。
二人の邪魔をした訳じゃない、と理解した潑春はひまりの横に胡座をかいて座り、膝を押さえて悶絶している彼女の負傷部分にデコピンをお見舞いする。
更に声を上げるひまりを気に留めずに、いつものポーカーフェイスで頬杖をついて宴会中にあった事の経緯を藉真に話し始めた。
「なんか、慊人がご乱心からの由希バーンからの綾兄ご乱心からの今…って感じ」
「万人が理解出来る様に説明し直せウシコラ」
悶絶していた所に更に追い討ちをかけられたひまりは青筋を立てて潑春の胸ぐらを立ち上がって掴み上げている。
あー、服伸びチャウ。と戯けたような声音で、だが抵抗しようともしない潑春に藉真はクスクスと笑っていた。
「夾は本家のどっかで、寝てんじゃない?由希は慊人に怪我させられたけど、とり兄がすぐ治療してたし大事にはなってなさそうだったから…鬼の居ぬ間に出てきた」
「怪我!?」
パッと胸ぐらを離したひまりは潑春の横に座り直しその身を乗り出した。だから大丈夫だって、と不安げに目を細める彼女の頭を数回ポンポンと撫で、冷やしたら?と真っ赤に染まる膝を指差した。
トドメ刺してきたやつが言うなとか何とか喚きながら、由希ラブの潑春が言うんだからまぁ大丈夫だろう、と保冷剤を取りに部屋を出て行く。
それを見送った潑春が藉真に向き直り頬杖をついた。
「何の…話?」
「さっきひまりと話してたことかい?ちょっとした昔話だよ」
「あ…、そう」
納得したのか、していないのか。無表情で分からないが、取り敢えずこの話を引き延ばす気は無いのだろう。
彼は視線をテレビに移して、机にあるリモコンを手に音量のプラスボタンを数回押した。
部屋に響くテレビからの笑い声が大きくなる。
「師範さ…呪いの解き方…知ってる?」
音量を上げたのはこの為か。藉真はひまりに聞かれたくないのだろうと理解して、声は出さずに首を横に振った。