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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


死にかけた所でCMに入り、カラカラになった喉をお茶で潤す。
時計は九時を回った所。
今頃舞が終わってワイワイしてる所かなー。と後ろに手をついて天井を見上げた。
猫は宴会には参加出来ない。今頃どうしてるんだろうか。


「…夾が心配かい?」

「そう、ですね。ひとりの時間は寂しいと思うので…」


母が亡くなってからのお正月は寂しい物だった。
ひとりでテレビを見て、ひとりで笑って、ふとした瞬間に寂しくなる。
夾が今、そんな風に過ごしているなら、やっぱり一緒に年明けを迎えたかったかもしれない。

ひまりが外で過ごせる、最期のお正月なのだから。


「私に何か聞きたいことあるんじゃないか?」


その言葉を肯定してしまうように、目を見開いて持っていた湯飲みをガタンと音を立てて置いてしまった。
ひまりのその様子に藉真は穏やかに微笑む。
シニ使が始まったがそれを見る余裕はなく、目を泳がせてどう切り返すべきかと模索する。
だが、藉真が敢えて聞きたいことがあるんじゃないか。と訊いてきたということは粗方予想を立てていて、自身の考えに間違いないと確信しているからだ。
でなければ、以前のようにこちらから動くのを待つ筈。

ひまりはギュッと手を握りしめて藉真と向かい合った。


「…どうして、そう思われたんですか?」

「邦光から聞いてね。あの石を持ってここに来たと…。私と母親との接点に気付いたからだろう?」


やっぱり…。そう思いながら、はい。と小さな声で答えた。蘇った記憶のアパートで暮らす母の髪が短かったこと。それを知っている師範は自分達が草摩を出た後に母に会ったのか?ということ、以前、母は髪が長かったと言う私に話を合わせたのは、記憶が無いと気付いて混乱させないようにしてくれたんですよね。等、そのような事を早口で言った。

順序立ても出来ず、支離滅裂だったが藉真は穏やかに微笑んだまま横槍も入れずに全てを聞き入れる。
ひまりがもう口を開かないことを確認して、一度お茶を喉に通す。


「草摩から逃げた後、私はひまりの母親と会っていたよ。定期的にね」


ひまりは瞠目する。
草摩から出たのに、わざわざ草摩の人間と母が関わりを持っていたという謎。
部屋に響くテレビからの笑い声は、目を見開いて息を止めるひまりの耳には届いていなかった。
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