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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


じっとりと体に纏わり付くような雨を隔離部屋の窓を少し開けて眺めていた。
薄暗い部屋に響くのは軒先を伝ってポタポタと落ちる雨音と自身の喘鳴。
喉が締め付けられているような感覚に、ひとり掛けのソファの肘置きを握り締め、瞳を閉じて耐えていた。

——— 由希って皆んなから嫌われてるのに…どうして生きてるの?

さっき部屋に来た慊人が穏やかな笑顔で浴びせてきた言葉が脳内を巡る。
このまま呼吸が止まれば楽になれるだろうか…。そう思ったのと同時に息をすることを辞めた。
酸素が無くなっていくことに脳が警鐘を鳴らす。耐えられない程に苦しくなった所で勝手に口が開いて空気を目一杯吸い込んだ。

喉の奥が急に拡張された事に反応したかのように咳が止まらない。
肺が痛い。

このやり方じゃ…死ねない。


「だい…じょうぶ?」


咳の音の合間に聞こえた声。初めて聞く声だった。
口元に手を当てながら、重い首を上げて声の方に視線を向ける。

ドクンッと心臓が跳ね上がった。
扉の前で立つ同い年くらいの少女は眉尻を下げて悲壮な顔をしていた。
咳をする由希の元へと寄り、立て膝で肘置きに置いていた手を取る。


込み上げてくる物が…止められない。
初めて慊人に会ったときとは違う感情。それが涙となって流れ落ち胸元を濡らす。

あぁ良かった…本当に、良かった。
君が存在してくれて…良かった…。


「し、しんどいよねっ。ツライよね、ごめんね…ごめんね…っ」


少女は由希の手を握り締めながらまるで懺悔しているかのように何度も、何度もごめんねと下を向きながら謝る。
涙声だったが泣いていたのかは分からなかった。
苦しさで声が出せない代わりに「ありがとう」の意味を込めて少女の手を握り返した。

その時から"死"を考えることが無くなった。


——— ゆ…き…


まるで雲の切れ間から光が差し込んだようで




「由希?何か考え事でもしてるの?」


隣で座る慊人に覗き込まれるように見られていた。
今年担当の十二支が舞を踊り終えた所だったようで、目の前には残りの十二支が集まって雑談をしている光景が広がっている。


「いや、別に…」

「そう?…ちゃんと僕の所へ戻ってきたんだね。だからね、この前の僕に対する無礼は許してあげるよ」


この穏やかに微笑む慊人の顔が"あの頃"は苦手だったな…とぼんやり考えていた。
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