第10章 声に出さないまま
「っざけんな!!!何で急にンなことになるんだよ!?」
「まぁまぁ夾君落ち着いて」
大晦日の朝。日課にしているジョギングから帰ってきた夾の声にコタツで寛いでいたひまりと由希は顔を見合わせる。
今年の"シニアの使いやあらへんで"略してシニ使の恒例特番で、蛾野は今年もいつもの人にビンタをするのだろうかと討論している時であった。
余談ではあるが、由希は定番だからいつも通りの流れでビンタするだろう。ひまりは今年こそはその定番を違う形でぶっ壊して貰いたい。との意見だった。
「十二支の宴に参加しねぇ俺がどうしようと勝手だろーが!それを今年は絶対に帰って来いだとか意味分からねぇんだよ!」
「そうは言っても慊人さんから言われてるんだから仕方ないでしょーが」
言い合いの内容を聞いてひまりは、あぁ。と何となく理解する。
由希も理解していたようで「は?」と息を吐くのと同時に戸惑いの声を上げていた。
草摩では毎年お正月は一族中が集まってお祝いをする。
その中でも特に大切にされているのが十二支だけを集めた宴。
仲間外れである"猫"にその宴への参加資格はない。勿論、物の怪憑きとしての存在を隠されているひまりも然り…である。
それに参加出来ない夾は、ひまりと一緒に三箇日までは藉真の自宅に泊めてもらう予定だった。
それがどういう訳か、紫呉の言うところによると夾も草摩に帰ってくるように、と慊人が言っているようで由希が驚くのも無理はない事案である。
だが、ひまりにとってはそんなに驚く程のことでも無かった。
"賭けの邪魔"をしたいのであれば、まぁそうするだろう。とミカンをひとつ手に取り揉みながらやりとりを静観している。
「ひまりへの嫌がらせ…にしか思えないんだけど…」
「どうだろうねぇ?ほら"定番"がぶっ壊されたってことは、今年の蛾野ビンタは例年と違うパターンになるかもよ?」
揉んだミカンの皮を剥き始めたひまりの様子に、由希は釈然としない顔で「驚かないの?」と訊く。
うーん…と唸り声を出したひまりは「別荘での事もあったし、まぁ無い話ではないよなーって感じかな」とミカンを口に放り込んだ。
ほら、あの時も急に夾が呼ばれたでしょ?肩を竦める彼女に、まぁそうだけど…と返しつつ未だに釈然としない表情をしていた。