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ALIVE【果物籠】

第10章 声に出さないまま


「そういえば…」


茶番劇の天誅を下された潑春は、頭に出来たコブに保冷剤を乗せたままカーネルオジサンのチキンを頬張り、チラリとひまりに視線を向ける。
因みにあの婚姻届は由希の手によってゴミ箱の中へと葬られた。
「何?」軟骨を咀嚼するゴリゴリというえげつない音を立てているひまりが首を傾げる。


「リンから…何か聞いてる?」

「いや…聞いてない…けど…なんで?」


由希と夾も食事の手を止めた。
「うーん…」と僅かに眉を潜め、剣呑な空気を醸し出す潑春の次の言葉を待つ。


「最近全然見ないから…楽羅姉のとこ行ってみたんだけど…入院したって…。でも誰も入院先分かんないらしい」

「…へ?入院?」


ひまりはゴクンと咀嚼していた物を飲み込み、動揺で瞳を揺らす。
「特にどっか悪いとかじゃないみたい。元々リンは体強い方じゃないから検査入院なんだって」安心させるように潑春が言うが、それにしても引っかかる事がある。

依鈴は自身の親に受け入れられず、楽羅の家で居候している。
楽羅の家族とは馴染めていないらしく、家に帰って来ないことも多かったらしいが入院先を一緒に住んでいる家族ですら知らないのは明らかに不自然だ。

だが、潑春によると草摩の人間に聞いても"知らない"の一点張りだそうだ。


「…誰も知らないって…それじゃあまるで…」


ひまりの時みたいだ。と続く言葉を由希は飲み込んだ。
ひまりは飲み込んだ言葉が何だったのか察して、申し訳なさげに瞳を伏せる。


「どーせアイツの事だから、見舞いに来られんのが嫌で言ってねーんだろ。今考えてもしゃーねーよ」


眉を顰めながらコーラを喉に通した夾は、リモコンを手にテレビの電源を入れた。
「それは…そうだけど…」と肩を落として呟くひまりに夾が「冷めるからとりあえず食え」とポテトを差し出した。

ひまりはそれを一本口に放り込む。

遠くに逃げようと必死になっていた依鈴を思い出していた。
「また来る」という言葉を最後に会っていない。

嫌な予感がした。自身が今まで感じた、この嫌な予感が外れた事はない。


テレビからは年末特番のCMが流れていた。
そう、もうすぐ年末。
草摩家では十二支全員を集めて宴をする。

今回はどうか思い過ごしでありますようにと願うことしか出来なかった。
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