第10章 声に出さないまま
取り出された大小様々な大きさの袋を三つ取り出す。
プレゼント交換だと豪語していたが、まさかの潑春が全て用意し、その上三つと数が足りない。
そして三つの内二つは百均の袋に入れられていた。
ツッコミどころが多すぎて、逆に沈黙を貫く三人を他所に潑春はスマホで音楽を流し始める。
この陽気なクリスマス定番曲に合わせてグルグルとプレゼントを回していけと言うことだろう。
茶番に付き合わされているひまりと由希と夾の表情は、テンポのいい曲調とは裏腹に全員が半眼でプレゼントを回す。
曲が鳴り止みそれぞれの手元にひとつずつ置かれたプレゼント。
「…ボールペン?」
「はぁ?ハンコ??」
由希はボールペン、夾には印鑑。
何故か印鑑の文字は「相馬」だった。
「いや、漢字違ぇし」
「百均…それしか…なかったんだよね」
ヒク…と顔を歪ませる夾にしれっとした顔で答え、最後のひとつに全員の視線が向く。
ひまりは一枚の紙を手にプルプルと肩を震わせていた。
由希と夾が怪訝な顔で見ていると、その紙を机にバンッと置き「待って無理…」と腹を抱えて笑い始める。
真っ白な紙に潑春の名前、そしてひまりと由希の名前が書かれていた。
"妻"の部分に二人の名前が書かれている。
この用紙を見るのは初めてだが、こんな書き方は絶対にあり得ない。
「あとは…ハンコ押して、証人の所…夾の名前書いて…」
頬杖をついて人差し指でトントンと紙を叩く潑春に、由希と夾は立ち上がって拳を怒りで震わせる。
潑春は、この"婚姻届"を完成させる為にわざわざプレゼント交換等とクソ面倒くさいことをしたのだ。
「何で俺も妻の所に名前が書かれてるんだ…?」
「コレで…俺と由希とひまりは、晴れて夫婦になる事ができマシタ」
「あ??とんだ茶番に付き合わせやがってふざけんなよクソ牛…」
「クリスマス…ジョーク」
ゴゴゴゴゴと音が聞こえそうなオーラを纏う由希と夾の二人に胸ぐらを掴まれ、服に刺繍されている"綾"の文字が伸びて歪む。
もう本当に今日は朝から爆笑しっぱなしだ。
今日一日で腹筋が六つに割れそうだ。明日は筋肉痛間違い無しだろう。
床に伏すひまりはヒーヒーと息を吐き出しながら、自身の腹筋と酸素不足の心配をしていた。