第10章 声に出さないまま
ジョギングから帰ってきた夾が受け取ったのは、粘土で作った歪な形の蛇のプレゼントだった。
服を作ることに関しては文句の付けようがない程の腕前の綾女だが、粘土細工に関しては初心者以下らしい。
蛇とは言っても粘土を引きちぎって、コロコロと伸ばしただけのように見える。
何故が毛羽立っているように所々がトゲトゲしているのはワザとなのかそうではないのか…。
それがまたひまりと紫呉のツボに入った。
今度は机に突っ伏して肩を揺らしながらダンダンと机を叩いている。
渡された夾はゴミを見るような目で三秒見て、綾女の頭頂でそれを叩き潰した。白銀の髪に潰された蛇が乗っている。
キョン吉は本当に短気だね!短気は損気だよ!とまた高笑いする綾女をスルーし、床に落ちていたスウェットをこれまたゴミを見るような目で見てから自室へと戻っていった。
綾女が帰るまで引き籠るつもりだろう。
やっと笑いが落ち着いた紫呉が「あーや僕へのプレゼントはー?」と片手の平を上に向けて問う。
「ぐれさんには勿論…この僕を」とその手を取る綾女に「コラコラ。そういうのは子供たちが寝た後のお楽しみだろう」と悪ノリが始まる。
この悪ノリは本人達の気が済めば、親指を立て合い「よしっ!」と謎の儀式を合図に終わるのだが、ひまりと由希はそれを見届けることなく雑談を始め…ようとしたのだが。
「…ひまり?なにそれ?」
「へ?ふぁにが?」
モッモッとミカンを口いっぱいに頬張っているひまりに絶対零度の笑顔を向ける。
先程投げつけたはずの"女"が書いてあるスウェットを着用していた。
ふざけるなとでも言いたげにひまりが着用しているスウェットの肩部分を掴みプルプルと震えさせている。
ミカンを咀嚼し、飲み込んだひまりは「いや、折角貰ったんだし着なきゃね」といつの間にか拾いあげていた"綾"の方のスウェットを由希に差し出している。笑いを含んだ顔で。
絶対零度の笑顔を崩さない由希は差し出されたスウェットを奪うようにして取り上げると、立ち上がってゴミ箱へと投げ捨てる。やはり笑顔は崩さない。
その後悪ノリを続ける二人に、迎えにきた超絶不機嫌な出立の救世主ことはとりが更に機嫌を悪くしたとかしなかったとか…。
とりあえず引き摺るようにしてドラキュラ綾女を連れ帰って行ったのだった。