第10章 声に出さないまま
だがしかし、正直なところ開けたくない。二人で現実逃避するかのように天を仰ぎ瞳を細める。
天井の木目は丸を三つ作っていて人の顔のように見えた。
何とかの叫びとやらに似ている。悲壮な表情だ。
いや、もう少し目を細めれば笑ってる顔に見えなくも…。
「なんだいなんだい!さっさと開けたまえ!!」
「二人ともー優しいお兄様からのプレゼントなんだから喜ばなくちゃー」
震えた声の紫呉がどんな顔をしているのか、見なくても想像がついて殺意が湧く。
結局木目はどう目を細めても笑った顔にはなってくれず、腹を決めてプレゼントへと手を伸ばす。
リボンを解いて袋の中へ手を突っ込み、ゆっくり引きずり出すと真っ黒のスウェット生地の服が出てきた。
綾女にしてはまともだ…。
チラリと由希のプレゼントを見ると、ひまりの物と同じく黒いスウェット。
あー。なるほど。
未来の伴侶にはお揃いの服をプレゼントー的なことか。と安堵して畳まれたスウェットを広げた所で言葉を失う。
背の部分にショッキングピンクのハートの片割れ。
由希のスウェットにも同じものがついている。横に並べば一つのハートが出来上がる。
ここまではまだギリギリ許容範囲内だったが、腹の部分が酷かった。
由希の物には"綾"。ひまりの物には"女"。
二人で並ぶと王家の気品が溢れてるらしい、この男の名が刺繍されていた。
紫呉が吹き出す。それはもう盛大に。
ひまりも無理だった。その文字が行書体だったのだ。しかもこれまたショッキングピンク。
ヒーヒー言いながら腹を抱える紫呉とひまりに冷めた目を向けてから、由希は汚物を見るような半眼でスウェットに視線を戻した。
「感動の余り言葉も出ないようだね!是非その衣装は初夜…おおっと卑猥な表現になってしまったね!トンネル開通」
「トンネル開通のが卑猥なんだよ!すぐに散れ!!」
「あれ?由希君言っちゃってるよ?大丈夫?それ言って大丈夫?」
ひまりのスウェットと共に綾女の顔面に投げつけ怒声を浴びせた由希は、腹筋が崩壊しそうな彼女の頬を片手で挟んだ。
「いつまで笑ってるの?」と抑揚のない声で顔を近付けるものの、彼女のツボの奥深くに居座ってしまったらしい笑いは少しの間収まることはない。
由希は額に青筋を立てたまま、救世主へ連絡すべく廊下へと出て行ったのだった。