第9章 ホダシ
「お前がお前の価値下げんじゃねぇよ。じゃあ何か?無価値なもんに必死ンなってる俺らって何だよ?滑稽か?」
「ちがっ…」
夾からの言葉に否定しようにも、余りにも的を得たことを言われて押し黙ってしまう。
違うと言いたいのに、やはり自身の価値が見出せなくて悔しそうに目を細めた。
「お前が卑下すればする程、お前に関わってる人間の価値を下げてるって気付けよ。お前のこと慕ってる人間がどんだけいんだよ?毎日どんだけお前は名前呼ばれてんだよ?それだけでお前の価値だろうが」
——— ひまりの存在がどれほど俺を救ってくれたか、分からないだろ?
——— さっきみたいに名前よべよ!縋り付いてこいよ!何があっても引き上げてやるから!絶対!
——— 私はひまりさんを望み続けます。ワガママだと言われても必要だと胸を張って言います。
ねぇ…夾の…譲れない物って…なに?
——— ……お前
ひまりは目を瞠る。
ひとつひとつの記憶が鮮明に浮かんで脳内を巡る。
名前を呼ばれるだけでも自分自身の価値ならば、かけてもらった言葉達にはお前はとてつもない価値があると言ってもらえたようなものだ。
本当にそうだろうか?
何の生産性も無く、むしろ未来が閉ざされている。
でも…それでも…。
ひまりは目の前の夾の瞳を見据えた。
違う。全然違う。
あの男が自身に向けたような、無価値な物を見るような目とは全然違う。
ここにいる人間誰一人としてそんな目で見られた事は一度も無い。
笑ってくれるのだ。
名前を呼んで、呼ばれて、一緒に笑って。
そうして価値を見出してくれる。
「勝手な負の感情でお前の価値を決めるな。誰かにとっては"このぐらい"と言われようが、お前が…ひまりが傷付いたんなら…ツラかったなら、声上げていいんだよ。少なくとも俺らにとってお前にはそんだけの価値がある」
ひまりは笑った。今度は安堵の笑み。
「こわ…かったぁ…」
怖かった。本当に嫌で気持ち悪くて、助けを望んで…来てくれた。
お前等何かに好きにされるほど無価値ではないと抗いたかった。
笑いながらボロボロと涙を流すひまりに由希は背中を、夾は頭を優しく撫でていた。
紅葉もボロボロと涙を流して、潑春は少しだけ口角を上げて笑っていた。