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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


感じたことのない怒りに目眩を覚える。
荒く息を吐き出す事だけが唯一の怒りを発散する方法だった。
その様子を分かっていて、敢えて潑春は軽口を叩いていると頭では理解しているのに、苛立ちが増幅する。
ピクリとも動かない蹴り飛ばした男に何の加減も出来なかった。


「何しやがんだテメェコラァッッ?!」


ひまりを押さえつけていた男達が立ち上がり、額に青筋を浮かび上がらせながら吠える。

あぁ、なんだ。一応誰かを思いやる心は持ち合わせてるのか。

由希は怒声を聞きながら温度のない無機質な目で見やる。
殴りかかってくるつもりであろう二人を前に、視線はそのままに潑春に向けて口を開く。


「春、アイツら任せていいか。今…加減が出来ない」

「はっ。ンなもん俺も一緒だろーが」


鼻で笑うが、否定が無かったことに承諾と捉え歩き始める。
構え方、向かってくる姿勢を見ても相手は明らかに素人だ。
最後に「加減しろよ」との言葉にまた鼻で笑いながら「善処する」と答えた潑春。

由希は殴りかかってきた男を避け、ひまりの元へと向かうが、背後で「殺してやらぁ!?!?!」と咆哮する潑春に僅かに残った理性の中で、何も善処してない…と密かにツッコミを入れていた。


ひまりは布団の上で浴衣を剥がれ、頭の上で手首を縛り付けられたまま呆然と目の前の光景を見ている。
下着を見に纏った状態で、男達も浴衣を身につけたままだったことから多分未遂…だと予測したが。
感情が読み取れないひまりの表情に、僅かに残る不安が拭いきれない。

由希はひまりの隣にしゃがみ、手首の拘束を解いてやると背に手を当てて起こしてやる。
彼女は今し方、襲われそうになっていたとは思えない程に落ち着いた様子で「ありがとう」と呟きはだけた浴衣を胸の前で交差させて肌を隠した。

何か言葉をかけようと口を開きかけてひき結んだ。
それに気付いたひまりが眉尻を下げて「何もされてないから大丈夫」とヘラリと自然に笑った。

これか。最近感じていた違和感。

ツライことがあっても、心に何か抱えていても、気付かれないほどに自然に笑えるようになっているんだ。


「…それよりアレ大丈夫?」


歪ませた笑みで指差した方向に目をやる。
いつの間にか加わった夾と潑春が本当に息の根を止めてしまいそうな光景が広がっていた。
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