第9章 ホダシ
露わになった下着に頭上の男達が、揶揄したようにヒューッと高音を付けた細長い息を吐き出す。
余りにも耳触りなその音に、無意識に眉を潜めていた。
頬、首筋、鎖骨、胸、お腹、と肌触りを楽しむように指の腹を滑らせていく男の息が上がり始める。
静寂の中で耳朶に響くのは男達の吐き出す息の音と、自身の痛いほどに鳴り響く心音。
上下する胸に、自分達と同じように興奮していると勘違いする男達が滑稽なものに見えた。
いや、滑稽なのはこの状況を受け入れている自分の方か。
胸を覆う下着に手を掛けられた所で瞳を閉じた。
キツく歯噛みすれば、圧をかけられた歯がギシギシと軋み始め痛みを伴う。
これでいい。
少しでも痛みの方に感覚が支配されるように…
「へー…この時期でも、活動してるゴキブリって…いるんだ…しかも三匹も…ミステリー…」
息が止まった。
その瞬間にこの状況を拒絶するかのように全身が震え始めたのは、希望の光が見えたからだろうか。
閉じた目を開けるのが怖かった。
もしも自身が作り出した幻聴であったなら、その絶望感はきっと精神が壊れる程の凄まじさだろうから。
「は!?ンだよお前ら!?」
「誰だよ鍵閉めなかったやつ!?」
途端に男達の焦った声で破られた静寂に、躊躇していた目蓋を押し上げた。
皆の目線は馬乗りになる男の背後。
目の前の男の肩越しにしっかりと見えた二つの影。
由希、春…。
くぐもって言葉にならなかった声は男達の焦った声に掻き消される。
由希の瞳はかっ開かれて細い糸一本でようやく我を繋ぎ止めているかのような危うさ。
潑春は口端こそ上がっているものの、眼の鋭さはブラックの時のそれだ。
由希と潑春はひまりに視線をやる。
ひまりは泣き出しそうな目で、それでも涙を溢すことはなかったが、ギリギリのラインで繋ぎ止めていた糸が切れるには十分な要素だったらしい。
由希は砕けそうな程に歯噛みした。馬乗りになる男の首元目掛けて右足で蹴り払う。
受け身も何も取らなかった男は首を不自然に曲げて畳の上に放り出された。
「あらー。由希姫容赦ねぇなぁ?」
「…これ以上…煽ってくれるなよ…春…」
フー、フー、と肩で息をする由希は何とか絞り出した掠れた低音で、蹴り飛ばした男をゴミを見るような酷く軽蔑した目で睨み付けていた。