第9章 ホダシ
「んーーーーーっっ!!!」
大きく叫んだつもりだったが、出たのはくぐもったような金切り声。
勿論、隣の由希達の部屋に届くはずもない。
口に入れられたハンカチの上から手で押さえられてるからだ。
数回叫んだところで喉から鉄の味が込み上げてきた。
その様子を余裕の笑みで見下す男を睨みつける。
頭上からも品のない笑い声が聞こえて虫唾が走った。
「そっかそっかー。隣の部屋にいる"オトモダチ"呼んでるんだねえ?」
ククッと目の前の男が眉尻を下げながら喉を鳴らす。
すると手を押さえる二人の男も同じように喉を鳴らした。
口の中の布を思い切り噛み締めた。
「男ばっかりと旅行なんて…どうせヤリまくってんでしょ?俺たちも楽しませてほしいなぁって思ったんだよねぇ」
ねっとりとした間延びした声でひまりの目と鼻の先まで顔を近付けた。
熱を帯びたような目から視線を外さずに顔だけを背ける。
腹立たしい。
殺意すら湧くこの感情を微塵も隠すつもりのないひまりの眼光に、口端を上げたままブルッと体を震わせる。
「強気な女の子ってそそるよねえ」
耳元で囁かれ、全身が粟立つ。
声が聞けないのが残念だけど、と目を細めて顔を上げた男の顔を月明かりが照らす。
その顔に慊人の顔が重なった。
その瞬間また誰かが耳元で笑い始める。
ケタケタケタケタケタケタ
逆えないと分かり切っているのにどうして抗うなんて、無意味なことするの?
ケタケタと弧を描いてた。
押さえられてビクともしない腕。
蹴り上げてやりたいのに太腿の上に座り直された足も自由に動かない。
物理的に抵抗が出来ない。
慊人に対するものに似ていると思った。
どう藻搔いても抗えないんだ。
慊人に対しては精神的に。
この男達に対しては身体的に。
見下す男の目が、お前には何の価値もないと言っている気がして、フっと全てを諦めてしまう。
あるんだよ。やっぱり世の中には、どう足掻いてもどうにもならないことが。
抵抗を辞めると、馬乗りになった男がつまらなさそうに首を傾げる。
ヤるならさっさとヤってくれと全身の力を抜いたのだった。
「なに?その気になっちゃった?それも面白くないなあ」
抑揚の無い声で浴衣の帯を解かれる。
冷やりとした空気を肌に感じてまた全身が粟立った。