第9章 ホダシ
さすがに買ってもらって、はいさようならーという訳にはいかず彼がミネラルウォーターを買うのをその場で見届けた。
「それ友達の分?」
「あ、そうなんです…ゲームで負けて、罰ゲームで…」
「そっかそっかー」
もう一度小銭を投入口に入れた彼は、今度はミルクティーを購入する。
それを取り出してひまりにハイっと突き出す。
意味がわからず首を傾げていると、「あの時見たんだけど、君入れて五人デショ?俺が買い終わるの待っててくれたお礼ー」とまた幼い笑顔で笑った。
戸惑いながらも「ありがとう…ございます…」とお礼を告げて受け取り頭を下げる。
「俺もねー大学の友達と来てんだけどね、ひとり飲み過ぎなやついてさー。嫌んなっちゃうよねー」
困ったように笑いながら、ジュースを両手に抱えるひまりに「それひとりで持ってけるー?」と聞く彼。
「大丈夫です」と返すとニッコリ笑って「そっかそっか、暗いから足元気をつけてねぇー」と手をひらひらさせながら廊下の向こうへと姿を消した。
ポツンと残されたひまりは、やばい奴認定していたことに心の中で謝罪して二階へと続く階段を小走りで上がっていった。
部屋に戻ると、机の上には売店で購入していたスナック菓子が広げられていて、本日二回目のお菓子パーティーが始まっていた。
それぞれに買ってきたジュースを渡し、ひまりもそれに参加する。
今度は買ってきていたトランプでババ抜きが始まり、ジェンガで負け続けたひまりは汚名返上だと異常にヤル気を出していた。
先程は散々笑い者にされたが、ババ抜きならば圧倒的弱者の夾がいる限り負ける事はない。
さっきの仕返しだと言わんばかりに、負けた夾に爆笑を送るひまりに拗ねた夾は「もう辞めた辞めた!」と布団に潜り込んでしまった。
気付けば時計の短針は11を指している。
紅葉の欠伸に吊られて大欠伸を披露したひまりに、由希がそろそろ寝ようか。と片付け始め、それぞれが自身の部屋へと散っていった。
由希と潑春に言われた通り、しっかりと施錠したことを確認して寝る準備を整える。
部屋の電気を消すと月明かりが部屋へと差し込む。
ふかふかの布団に身を包み目を閉じて、楽しかったなぁと今日の出来事を思い返していた。
余りにも警戒心が薄れていた。