第9章 ホダシ
まるで陸にあげられた魚のように苦しむひまりの為に、食後休憩を三十分程取り、ジェンガ大会を開催することとなった。
ルールは一般的な物と同じ。
ブロックタワーの中から片手でブロックをひとつ抜き取り、タワーの一番上に置く。
上段二段から抜き取ることはルール違反で、タワーを倒した者の負け。
五回勝負で負けが一番多い人間が、全員分のジュースを買ってくる…という罰ゲームも設けられた。
シンプルな遊びだが、緊張感に負けない精神力、バランスの見極めや手先の器用さ、敢えてバランスを崩しそうな所を取って相手にプレッシャーを与える勝負どころの見極めが鍵を握る。
…が、このゲームに非常に向いてない人物が一人いた。
「ちょ!!!あー!!!なんで?!何で崩れんの!?!?」
ガシャーンと大きな音を立てて崩れたそれをひまりは目を剥いて見つめた。
まさかの始めてから抜かれたブロックは五個目である。
ひまりはゲームが始まり、初手でこのタワーを崩壊させたのだった。
「ちょっ!おまっ!!よわっ!!」
雨が止み、顔色が戻っていた夾が指差しながら爆笑し始める。
紅葉も爆笑。由希は下を向いて笑いを堪えているのか肩を震わせていた。
潑春はまたひまりの敗北し絶望した姿にスマホを向け続けている。
今回は動画だ。
しかも、緊張で手が震えまくっていたひまりに面白いことが起こるとの予想が的中したので、その動画には崩す前からのものが撮られている。
画面下の赤い停止ボタンを押して、良いものが撮れたと机の下でガッツポーズをしていたことは誰も知らない。
「まって!次!次は大丈夫!!私を一番にして!!」
崩れたブロックタワーを作りながら「私が一番の右回りね!」と勝手に決めるひまりに文句を言うものは誰もいなかった。
どうせどの順番になってもひまりに負ける事はないと確信していたから。
その確信通り、五回ともひまりが負けた。
何度か順番を変えたが、一巡目は回っても二巡目に必ず彼女が崩壊させるのだ。
ひまりは自身の不器用さを呪った。
五回勝負が終わり崩れたブロックの中に倒れ込む。
その姿は陸に上げられた干からびた魚のようだ。
またその醜態をカメラに収める音が聞こえる。
連続して鳴り続ける連写の音は他メンバーの笑いを増幅させた。