第9章 ホダシ
結局部屋割りは一番奥の角部屋がひまり、真ん中が由希と潑春で、端が夾と紅葉になった。
因みにそれぞれの部屋に荷物を置きに行く際、部屋を開けてとドアを叩き喚き散らす紅葉に、体調の悪さも相まって不機嫌さが頂点に達した夾に膝裏を思い切り蹴られていた。
紅葉のひまりと一緒にお風呂に入るという主張も虚しく、男女別で室内温泉で体を温めた五人は用意されていた浴衣に着替え、夾と紅葉の部屋で集まっている。
それは何故か…。
みんなで一緒にご飯を食べよう!と騒ぐひまりと紅葉に夾は分かりやすく嫌な顔をした。
雨足が弱まったとはいえ、まだ体がダルいのだろう。
俺は一人で食うからお前らだけで集まって食えと、シッシッと手を払う夾の意見が通るはずなどない。
夾が動かないつもりならココでみんなで食べればいい。と部屋に居座った結果だった。
「お前ら食ったら部屋戻れよ」
「やだ。さっき売店で下着買うついでにジェンガ買ってきたの。ご飯の後にみんなでやるよー!」
笑顔でジェンガを広縁の机の上に置くひまりに、夾は"めんどくせぇ"と言葉にこそ出さなかったが、その顔には分かりやすく書いてあった。
楽しみだねぇ!首を傾け合うひまりと紅葉に、ハァとため息を吐きつつ遊びに付き合うつもりなのか拒否の言葉は口には出さなかった。
夕食は豪華ではなかったが、魚の塩焼きをメインとした八品ほどの和善だった。
その中でも絶品だったのは"むかごの天ぷら"。
見たことのないソレを老夫婦に質問した所、"むかご"とは山芋の葉の付け根に出来る球芽…いわば山芋の赤ちゃんだと教えてくれた。
見た目は1センチ程の小さな山芋。
山芋の赤ちゃんと言うだけあって山芋の味に似ていたが、程よい甘みと粘り気、塩で食べると更に甘さが引き立ち、ひまりはその美味しさに舌鼓を打ちつつ、珍しく全ての食事を平らげたのだった。
が、その結果、食べ過ぎて動けない…と大の字で寝転がるひまりの姿。
「苦しいー」
「食べてすぐ寝たら…牛になる」
「ガチの牛に言われたくないんだけど!?」
ひまりの言葉の仕返しと言わんばかりに潑春は彼女の大の字姿をスマホに収め始める。
悪態をついてみたが、連写機能まで使い始めた事に噴き出したひまりは満腹感と爆笑という相性最悪な状態に苦しんでいた。