第9章 ホダシ
「夾、雰囲気が、怖いから…。まぁ俺に任せて」
二番手に名乗りをあげたのは潑春。
幼い杞紗や燈路の子守の経験から、小さな子相手には自信があるのだろう。
目に涙をいっぱいに溜めた女の子の前にしゃがんで小首を傾げる。
「ひまりの太ももの感触、どんな感じ」
「ぎゃー!!!!!!!」
「何が俺に任せてだよ!?馬鹿かお前!?」
女の子に泣き叫ばれ、夾に後頭部をはたかれた潑春は渋々元の位置までさがる。由希と邦光はやれやれと頭を抱えていた。
ケタケタと笑う紅葉が二人ともダメダメだなー!と夾と潑春の肩をポンと叩き一歩前に出る。
「キョーもハルもお顔が怖いんだよー!!こんな時こそボクの出番だね!!」
ニシシッと拒絶された二人を横目に笑いながら、愛嬌ある笑顔で女の子に近付く。
確かにこの中で一番幼児相手に適任なのは紅葉なのかもしれない。
泣き止んでキョトンとした顔の女の子の目の前で、ニッコリと笑う紅葉の様子を全員が安心して見ていた。
「ねぇねぇ!お靴可愛いね!このキャラクターって」
「ぎゃー!!!怖いー!!ぎゃー!!!」
「!?!?」
拒否された。
何なら前二人よりも更に明確に"怖い"と言われたのだ。
ひまりと由希と邦光は驚きを隠せず、目を見開いて口をポカンと開けている。
夾も最初こそ驚いていたようだったが、腹を抱えて爆笑し始めていた。
紅葉は相当ショックだったのか、ふらふらと戻り潑春に抱き付いていた。
「まあ…紅葉、だいぶ図体デカくなったし…。それに、子どもって見えない物、見えるって言うから…紅葉の黒い部分、見えたんじゃない」
「ボク黒くないもーーーん!」
えーんと泣き出す紅葉の頭をポンポンと撫でながら、由希に視線を送る。
え?俺?と由希が困惑しつつ、少女にニコリと笑い掛けると泣き叫ぶのを辞めて由希の顔をジッと見つめ、少女の頬が僅かに緩んだ。
その様子に、由希が近付こうとするが一歩踏み出した瞬間に歪み始めた少女の表情に足を戻す。
どうやらひまり以外を受け入れるつもりはないらしい。
「うーん…私がこの子と一緒にお母さんかお父さん探してみるよ」
よいしょ、と小さな少女を抱き上げると、ひまりに縋るように首に手を回し肩に頭を預ける。
ひまりはその様が余りにも愛おしくて小さな体を優しく抱き締め返した。