第9章 ホダシ
分厚い雲に覆われ始めた空は、所々で雲の中が壊れた蛍光灯の様に光を放つ。
大雨が来そう…。
病院の前に着いた五人は急ぎ足で建物の中へと入っていった。
玄関前にポツ、ポツ、と大きな粒が染みを作り始めたかと思えば一気に地面は一面色を濃い色に変えて、雷鳴を轟かせた。
「ンだよ!雨降るなんか言ってたか!?」
「もうちょっと遅かったらカミナリサマに打たれちゃうところだったね!」
カラカラと笑う紅葉を半眼で睨みつける夾は、雨のお陰で急に体が重くなったのか猫背になって気怠そうに項垂れたていた。
「おー!来たかー!雨に降られる前に着いて良かったな」
「邦光っ!」
「クニミツー!!」
ひまりと紅葉が出迎えてくれた邦光に寄ると、二人の頭をポンポンと撫でて微笑んだ。よく来てくれたね、と。
「由希も春もご苦労さん。夾は…相変わらず雨の日は体調が悪そうだなぁ」
由希と潑春に片手を上げて声を掛け、項垂れる夾を見て眉尻を下げて笑っていた。
外で鳴り響いた雷鳴の轟きに外に目を向けた後、ここで立ち話もアレだし、藉真さんの病室まで案内するよ。と邦光を先頭にして歩き始めるメンバー達だったが、ひまりは立ち止まったままだった。
それに気付いた由希が振り返る。
ひまりは大層困った表情で振り返った由希に助けを求めていた。
異変に気付いた他のメンバーも足を止める。
「あー…えっとー…どうしたらいいと思う?」
ひまりの腰辺りまでの身長の女の子が、彼女の右足にしがみつき二つに結った髪をブルブルと震わせながらボロボロと涙を流している。
どうやら雷が怖かった様で、それをひまりが宥めるように頭を撫でているが…誰だ?その子?が全員の感想だった。
近くに親がいれば、見ず知らずの人間の足にしがみついている我が子を連れにすぐに寄ってくるのだろうが、周りの大人は皆見て見ぬ振り。
次に全員の脳に浮かんだ言葉は"迷子!?"だった。
「何処のガキだよ?おいお前、名前言える」
「ぎゃー!!!!」
夾が気怠そうに体を揺らしながら近付こうとしたが、完全拒否と言わんばかりに泣き叫ばれ、ピシリと体を硬直させる。
あまりの拒否のされ方に、その場にいた全員がプッと小さく吹き出したのであった。