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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


だが、その"厳格な隊長ノリ"をひまりが続けられるはずもない。

あれから5分も経っていないが、紅葉と二人で柿の木に集まる小さな鳥を指差しキャッキャとはしゃいでいた。
かと思えば、「紅葉見て!変な虫!変なやついる!!」と二人でしゃがみ、地面をジッと見始める。


まるで小学生のような振る舞いと好奇心に少し遠くから見守っている由希は、腕組みをしたままクスッと微笑んだ。


「どう?最近…」


同じく由希の隣で見守りをしている潑春が、数回ひまり達の写真を撮ってそれを確認しながら問う。
どう?と聞かれても、どれのことだろうか。思考を巡らせるがひまりに関しての事だろうと検討をつけて「…怖い…かな」と視線を落として答えた。


「…怖い?」

「うん…。なんだろう…。最近のひまりって、うまく言えないけど…突然消えてしまいそうな…未来を諦めてるような…」


抽象的にしか言えなかったが、潑春は「あー…うん」と共感するような言葉を発した。
潑春も同じように感じていた事に驚きと共に、肯定された恐怖感に不安が募る。
ただの勘違いにしておきたかったのに。


「慊人に呼び出されたとき…気になる事、言われた。ひまりは自ら望んで俺らの元を去る、裏切られる。って」


今度は小さな小川に手を入れ、冷たいと騒ぎながら声を上げて笑うひまりをジッと見つめた。


「俺も…慊人の言葉で気になること…あるんだ」


ひまりが居なくなる。
その信憑性が更に増す気がして、言葉として出してしまうことに躊躇した。

ん?と首を傾げる潑春に、何かあった時のために共有は大事だよな。と腕組みをしたまま軽く拳を握った。


「ひまりはどーせ壊れるって…そう言ったんだ。慊人」

「……ふーん」


潑春は目を細めて、地に咲く雑草を見ている。
怒気を含んだような半眼。
由希がその視線の先を追うと、季節外れのシロツメクサが一本だけ咲いていた。

シロツメクサ…そういや前にも春とシロツメクサっていう…。あぁ、あの時か。
事切れたスズメに、潑春が添えてやっていたものだ。


潑春は小さな白い花の前で、膝を開いたまましゃがみそっと触れる。


「裏花言葉は…」

「え…?」


その言葉に由希は背筋がゾッとした。
あの時のスズメと彼女が重なってしまったから。
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