第9章 ホダシ
ひまりをこの土地に…猫憑きの墓に入れるわけにはいかない。
幽閉になんて絶対にさせない。
澄んだ空気を肺に溜めて吐き出す。
いつか俺が眠る場所か…確かに陰湿な草摩で眠るよりかはいいかもな。広く真っ青な空を仰いだ。
そして未だに道のど真ん中で大の字になる二人に近付き、爪先で軽くつつく。
「オラ、いつまでそーやってんだよ。さっさと起きろ」
足蹴にするなんて酷い!鬼畜!ひまりと紅葉が上半身を起こし、ブーブーと文句を垂れるのを半眼で睨みつける。
自然を堪能してるんだから邪魔しないでと凄むひまりに、今から入院患者に会いに行くのに汚れてどーすんだ。とド正論を突きつけられ、シュンと肩を落としたひまりと紅葉は膝を抱えて謝罪を述べた。
間延びしたような謝罪に思う所はあったが、聞き流すことにして夾はポケットに手を突っ込んで歩き始める。
やはり足蹴にされた事には不服を抱いていたひまりは通り過ぎた夾の背中に、三角座りをしたまま顔の真ん中に皺を寄せて思い切り舌を出して憂さを晴らす。
それを上から覗き込んだ潑春が「ベロチュー、したい?」とひまりにセクハラしようと顔を近付けたのと同時に、由希が後ろから蹴り飛ばして阻止したのだった。
「バスが来るまで…一時間半もあるのかー…」
道路に面した屋根付きの小さなバス停。
その時刻表と潑春のスマホ画面の時計を交互に見てひまりが呟いた。
予想以上の長い待ち時間に、気怠そうに前のめりになった夾は小屋の中にある三人ほどが座れるベンチを占領し、寝るからバスきたら起こせ。と目を閉じた。
へいへーい。軽い返事を返したひまりは、むしろこの待ち時間にワクワクと胸を躍らせている。
一時間半もある。探検するっきゃない。
「草摩探検隊!周辺の探索を開始するっ!!」
「ラジャーッ!!」
ひまりの急に始まったノリに紅葉は勿論乗っかる。
潑春もいつもの無表情で親指を折り込んで4本指を立てた手を額につける。
残りの一人は苦笑いを浮かべていた。
ノッてこずにハハッ…と眉をハの字にして乾いた笑いを出す由希にひまりは無言の圧をかける。
口を歪めたまま「ら、らじゃー…」と潑春の真似をすると、渋い顔でウムと頷いた彼女はきっとこの探検隊の隊長…なのだろう。