第9章 ホダシ
「どーせお前も!!僕を心の中で馬鹿にしてる癖に!!お前も裏切る癖に!!」
「慊人…俺は…」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!あの欠陥品さえ産まれなかったら…!僕は特別で!!アイツは欠陥品なのに!!なのに何でっ!!!」
頭を抱えて腰を折る慊人に、拾っていた破片を置いて近付きそっと腕を掴んで引き寄せる。
シャツに無数の皺を作りながら、助けを求めるように泣きじゃくり縋り付く慊人の背中をポンポンと心音と同じリズムで叩いた。
「僕を…置いていく…皆んな…裏切って、離れて…行こうとする…絆があるのに…絆が…。不変なのに…変わらないはずなのに…」
嗚咽を漏らす慊人の細く小さな体を横抱きにして持ち上げ、布団へと優しく横たわらせる。
トントン…幼子を寝かしつけるようにその背にリズムを刻めば、少しずつ落ち着いていく呼吸。
涙に濡れた頬を親指で拭ってやる。
「アイツが…欠陥品が…壊していくんだ…絆を…。アイツさえ…いなければ…」
「それはっ」
違う…と口に出そうとして言葉を飲み込んだ。
既に規則正しい寝息を立てて眠る慊人の額にそっと口付ける。
——— 今までに無かったんだって?十二支全てが揃った時代って。なら確定じゃない?今回が"最後の宴"だよ。
細く柔らかい黒髪を指に通しながら撫でる。
思い出す言葉に眉を潜めて。
——— 僕達にとってひまりの存在は必要不可欠。じゃあ……そのひまりの役割って何だと思う?
慊人を起こさぬように慎重に布団から抜け出し、破片の片付けを再開する。
カチャリ…カチャリ…手に乗せていく破片をジッと見つめた。
「……修復」
割れてしまった急須と湯呑みの欠片に、眉根を寄せて目を細める。
——— "神様"はひまりは絆を脅かす存在だと思ってるみたいだけど…逆だよ逆。唯一の"希望"だってのにねぇ…
「何が…希望だ…」
破片を手のひらに乗せたままギュッと握ると、溢れ出す鮮血。
腕を伝うそれは、捲っていたシャツの袖を真っ赤に染めていった。
歪んでいる。
本当に、何もかも。
だからこそ、見守っていたのに。
二度とこちら側に戻ってこないように。
だからこそ
逃したんだ。
あの日、草摩から。
母親に協力して。