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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


ねぇ、夾は私が好きなの?
透君と二人で話してた時に頬を染めてたのは私の話をしてたから?
譲れないものが私だって言ったのも、ポケットに入れた繋いだ手の指を絡めたのも…やっぱりそういうこと?


「ビックリさせてごめん。二人が私の事考えてくれてたのが嬉しくて…」

「いえそんな…私は全然…」

「ううん。ありがとう」


夾は自分が幽閉された後の事も考えて…透君に言ってくれてたの?
この先の未来、私が生きやすいように…。


「じゃあそろそろ帰るね!急に来てごめんね!お爺さんのお誕生日会楽しんで!」

「こちらこそっ!わざわざ届けてくださってありがとうございましたっ!また明日学校でお会いしましょう」

「うん!また明日ね!」



いや、考えれば考える程、滅茶苦茶好きじゃん。私の事。

プッと吹き出して笑った。
目に涙を溜めて。

産まれついた場所が草摩じゃなければ。
憑いた物の怪が二人目の鼠じゃなければ…猫じゃなければ。


「あーもう…」


お互い、幽閉の運命を背負っていなければ。
違う未来を見据えることが出来たんだろうか?


「好きだー………」


透の家から遠ざかり、空を仰ぎながら両腕で目を隠した。

薄暗い空には大きな満月がうっすらと顔を覗かせていた。








ガシャンッ


「慊人っ!!」

「きゃっ…」


払い除けられた急須と湯呑みが宙を舞う。
壁に向かったソレ等は衝突音を鳴らし、大小歪な形へと姿を変えて地に伏す。
中に入っていた緑茶が床に染みを作るのとともに湯気を上げていた。


「す、すみませっ…」


まだ"手伝い"としては日が浅いのか、お茶を運んできた若い女は目をかっ開いてブルブルと震えている。
動揺している女に、紅野は大丈夫だからここは任せて戻って。と退出を促した。

破片を拾い上げながらチラリと慊人の様子を伺う。

肩で息を繰り返しながら、その瞳は焦点があっていないかのように一点を見つめながらも小刻みに動いている。

またか…。

ここ最近頻繁に起こす癇癪。


「…ダメだよ慊人。人や物に当たるのは…」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!皆んなして僕を馬鹿にして!裏切って!ひまりひまりひまりうるさいんだよ!」


しゃがんで破片を拾う紅野の頬を平手で打つ。
伸びた爪が頬に三つの線を作った。
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