第9章 ホダシ
「…透君のお家って…ここで合ってる…よね?」
担任から聞いた住所を頼りにここまで来たが、家二軒分程ありそうな戸建てにハァーと驚嘆の声を上げる。
そういえばお爺さんと住んでるんだっけ…?じゃあ二世帯住宅的な感じなのかな?と二台分置ける駐車場を見てその大きさに納得した。
緊張しながら呼び鈴を押すと、「はーい」と聞き慣れた声が聞こえてホッと胸を撫で下ろす。
玄関を開けてひょっこり顔を出した透に「やっほー!」と片手を上げれば、驚きの声とともに制服の上にエプロン姿の透がアタフタとしながら玄関扉を全開にした。
「え、ど、ど、どうしたのですかひまりさん!?ってあ!!それっ!」
ひまりの胸に抱えられている馴染みのランチバッグを見て「わざわざすみませんっっ!」と勢いよく何度も頭を下げる。
首がもげそう…と心配になったひまりは大した事じゃないから…と透の両肩に手を置いて頭を下げる透の行動を阻止した。
「忘れてしまったと家についてから気付いたのですが…学校に取りに行ってては準備が間に合わないと思いまして…」
「あ!ごめん!忙しかった?じゃあ、またあし」
「いえいえ!!もう殆ど終わったので大丈夫ですよ!!」
実は今日、お爺さんのお誕生日なのです。嬉しそうに微笑む透に釣られてひまりも「素敵だね」と微笑んだ。
「もしお時間があるのでしたらお茶でも飲んで行かれませんか?」
「ううんー!私も晩ご飯の支度とかあるか……」
ひまりが一点を見つめたまま途中で言葉を終わらせた事に、透は首を傾げる。
透が視線の先に目をやると、靴箱の上に置かれた十四匹の動物の置き物を見ている事に気付き、僅かに頬を染める。
「透君…それ…」
「実は修学旅行の時に見つけまして…探したんですが、やっぱり猫さんは居なくて、鼠さんも単品では置いてなくてですね…」
猫さんと鼠さん…私が手作りさせて頂きました…です。ふにゃりと笑う透に、ひまりはある疑問が浮かんだ。
修学旅行の時って…私まだ透君に物の怪憑きだって打ち明けてない…。
「修学旅行の時には…もう知ってたの?私が…物の怪憑きだ…って」
ひまりの言葉にハッと目を見開いてから顔を青くさせる。
口をパクパクとさせる透に、「あ、ごめん落ち着いて」と肩に手を置いた。