第9章 ホダシ
夾はもう既に掃除を終わらせて、不機嫌な顔をして机で頬杖でもついてるんだろーなー…。
そんな予想を立てて戻ってきた教室を覗く。
思い描いていた脳内の光景が、そのまま視界に映り思わず口端が上がってしまったことは秘密。
「ごめん夾!遅くなった!」
「…おせーよ。いつまで待たせんだよ」
文句を垂れながら自分の鞄とひまりの鞄を手に気怠げに立ち上がる。
ごめんってー!困ったような笑顔を作りながら夾の元へと歩み寄る想い人を、潑春は教室の外から眺めていた。
「あれ??」
ひまりの声に夾が振り返ると、彼女の手には見覚えのないランチバッグが持たれている。
「これ透君の…。お弁当箱忘れちゃってる…」
「あ?ンなもん明日でも良くね?」
「ダメ!1日置きっぱなしにされたお弁当箱洗う時のテンションが夾に分かる!?」
「いや、知らねーよ」
「蓋開ける時のドキドキ感ったら、もう凄いんだからね!?」
「だから知らねーよ!?」
ひまりは過去にその経験をしたことがあるのだろう。
嫌悪感を滲み出した表情で手に持つランチバッグを凝視した後、夾から受け取った鞄から紙とペンを取り出しスラスラと何かを書き始める。
覗き込む夾はそのメモを見て嫌な予感がした。
人参、玉ねぎ、ナス…と書かれていくソレに、半眼で睨みつけるようにその背中に視線を突き刺す。
視線に気付きつつ、はいこれ!と書き終えたメモを突き出す彼女に、呆れも加わった目で再度睨みつけた。
「私、透君の家にこれ届けてくるから買い物ヨロシク!!」
「俺もアイツんとこ、一緒に行きゃいいんじゃねーの?」
「ダメだよ!今日は牛肉が三割引なの!早く行かないと無くなっちゃう!」
「…俺はお前に待たされてたんだが…?」
ハァァとワザとらしいため息を吐きつつも、差し出されたメモを受け取りポケットに入れる。
教室を出た所に立っていた潑春と夾の目が合うが、夾が一方的にそれを逸らした。
屋上での喧嘩以来、会話をしてない二人。
そのまま背を向けて去ろうとする夾の腕を潑春が掴んで引き止めた。
「夾、放課後デート、しよ」
「ああ!?ンだよ急に気持ち悪ィな!」
「俺ポテチ…買いたい…」
「いいじゃん!デートしといで!」
夾に謝りたいと潑春が言っていた事を思い出し、乗り気じゃない夾の背中を押した。