第9章 ホダシ
潑春について行くと着いたのは、屋上へと続く階段の踊り場。
階段に腰掛ける潑春の横に、ひまりも腰を据えた。
何となく…落ち込んでるような…?
フードで余り表情が見えず、耳に髪を掛けながら彼の顔を覗き込む。
すると一瞬目を見開いた潑春は、苦いものを口にした時のように目を細めた。
「ピアス…夾のに付け替えたんだ…」
「あ、うん、そうなの。春みたいに上手に出来なくて凄い時間かかったんだよねー」
あははっと笑うひまりは、何の反応も返してこない潑春にやはり違和感を感じる。
その瞳が落ち込んだようにも、苛立ったようにも見えてさらに困惑した。
「ねぇ、春…今日どうし…っ!」
被ったフードの隙間から見えた左耳。
真っ白なガーゼで覆われたそれは、怪我をした事を表している。
だからパーカー…。
もしかして…慊人…?
ふと浮かんだ人物に体を震わせた。
ひまりは眉尻を下げて、フードの中へと手を滑らせてそっと左耳に触れる。
潑春も受け入れるようにフードを脱ぎ、ひまりの目を真剣に見据える。
「これ…どうしたの?もしかして…あき」
「この前呼ばれた。ひまりが本家に来た時…慊人に」
やっぱり…。ひまりは目を細める。
なんとなくガーゼの下がどうなっているのかは想像がついた。
潑春はいつもピアスをつけているから…。
左耳に触れるひまりの手にそっと手を添える。
「ひまりとお揃いじゃなくなっちゃった。…とり兄に縫って貰ったから…もうここにはピアス…つけれないと思う」
「縫っ…?」
引っ張られて多少裂けた程度だと思っていたひまりは背筋に悪寒が走り、ヒュッと喉が鳴った。
千切ら…れたの…?
こみ上げてきた物を抑えるように片手で口に圧をかけて覆った。
目を見開くひまりを安心させるように、潑春は数回小さな頭をポンポンと撫で「もう痛くないヘーキ」と柔らかい声音で呟く。
「でも…っ」
「したかった話…コレじゃない」
ひまりが口に当てている手を握って離させ、今にも泣き出しそうな瞳を見据える。
握った手にギュッと力を込めてポケットから取り出した小さな銀のソレをひまりに見せる。
「…慊人の部屋で見つけた。…なんでコレ…慊人のとこにあったの…?」