第9章 ホダシ
引き裂かれそうな心に眉を潜めそうになったが、見目の良い笑顔を崩さずに耐える。
「それを…悩んでたの?」
「いや!恋ってどんなもんなのかなーって!ほらやっぱ女子高生だし!恋バナとか興味あるし!ってか由希は恋したこと」
「それ…新しいピアス?」
話題を変えるためにひまりの言葉を遮って、机に転がっている四葉のクローバーのピアスを指差す。
が、ミスった。と思った。
夾がひまりにピアスをプレゼントしたと潑春から聞いていたから。
「あぁ、これ?そろそろ付け替えようかなって思って頑張ってたんだけど、慣れてないから全然入れらんなくて…」
摘み上げたピアスを見つめながら話すひまりがハッとして由希にキラキラとした目を向ける。
その様子に、何を言われるか察した由希は机の下でギュッと手を握りしめる。
「由希これ付けてくれない?!自分ではどうにも」
「ごめん」
また言葉を遮る。
見目の良い笑顔はそのままに。
「"俺は"それを付けてやれない」
強調された言葉と温度を感じさせない声音にビクッと肩を揺らす。
止まった時はほんの一瞬で、そういえば由希は手先が不器用なのだと思い出し、ヘラッと笑った。
「ごめんってー!そんな冷酷な空気醸し出さないでよ」
「新手の嫌がらせかと思ったけど?俺が不器用なのを茶化すつもりだっただろ?」
「いや、違うし!そんなに性格悪くない…と思う!!」
「ふふっ、そこは自信ないんだ?」
違う、違うんだ。
ただ嫌だった。
俺の手でそれを付けるのが。
自室に戻り、力なくベッドに腰掛けて頭を抱える。
乾いた笑いと共に出た言葉は「…ガキが…」だった。
どうせなら俺じゃなくても、せめて潑春なら…まだ許せたかもしれない。
「なんで…よりによって…アイツなんだよ」
吐き捨てるように呟いた言葉に、頭の中のもう一人の自分がまた、ガキだと罵倒してきた。
「なーに唸ってんだぁ?」
ありさが机にある紙と睨めっこしているひまりの頭上から声をかける。
ビクッと肩を跳ねさせて机上の紙を、焦った様子で両手で隠すひまり。
「び、びっ!ありさ急に声掛けないでよ!!」
その挙動不審さにありさと咲はニタリと含んだような悪い笑顔を向け、透も珍しく目を輝かせていた。