第9章 ホダシ
「…で?考え事?」
机に頬杖をついた由希は、人の良い笑顔を作ったまま穏やかな声で先程と同じ質問を投げ掛ける。
ひまりは口端をヒクと痙攣させる。
由希は分かっていたのに、敢えて泳がせてからトドメを刺しにきたのだ。
ワザと同じ言葉で質問をして。
まぁ、なんと良い性格をされてらっしゃるのでしょう。
肩を竦め、観念した犯人のように両手を上げる。
一応秘密ってことにされてるから、見せれないんだけど…と前置きをして話し始めた。
「燈路から貰った折り鶴あるでしょ?あれの中に謎解きみたいなのが書かれてて、それを考えてたの…でも私謎解き系苦手で…」
「どんなやつ?」
興味深そうに身を乗り出す由希は、こういうものが好きなのだろう。
由希ならまた何かヒントをくれるかもしれない。
ひまりは少し考えて、スクールバッグの中からペンと不要になったプリントを取り出す。
裏返したプリントに"そうまゆき"と平仮名で書き、その下に矢印を二つ書いた。
「こんな感じで真ん中に文字と矢印が書かれてて、右下に"誰にも見せるな"って書いてあったの。だからその問題自体は見せられなくて…」
「うーん…」
人差し指と親指で顎を挟み、ひまりの書いた物と睨めっこしている。
少し考えてからペンを持ってサラサラと文字を書き始めた。
「ひとつ解き方を思いついたんだけど…この矢印が右に二つ進めってことなら…"あ"なら"う"、"た"なら"つ"みたいにズラすとか…かな。この文字をローマ字に変換して二つずつズラすってパターンもあると思う」
「ほぉ!!さすが由希!」
目を輝かせて感嘆の声を上げるひまりに、クスッと笑う。
「その書かれてた文字って意味があるような物?"たいよう"とか"うみ"みたいな…」
「うーん…意味わからないっちゃ分からない…かな」
「じゃあやっぱりこんな感じの解き方で合ってるんじゃないかな?簡単な意味のある言葉なら英語にしてーってパターンもあり得そうだったけど」
「なるほど…」
やっぱり由希は凄い…。解き方の可能性を、納得出来る理由をしっかりと付けて絞り込んでくれた。
何だか解けそうな気がしてきて、ひまりは胸を躍らせる。
早速試したい!が、そういえば聞きそびれていたことがある。
「そういえば由希、私に何か用事あった?」