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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


眼球を左に動かせる限界まで動かし、鏡の中の自分を必死に見つめる。
気にしたことは無かったが、眼球が動く限界値というのは意外と狭い。
そして無理をして限界ギリギリまで頑張ってしまうと、焦点が合わなくなる。

これは厄介だ。

潑春なら鏡を見なくても、ものの3秒もかからずにピアスを入れていた。
あんなにも簡単にやってのけていたのだから、自分自身も簡単に出来るものだと思っていた。

だが、この有り様。

キャッチを外すのに少し手間取ったが、ピアスを外すのは簡単なものだった。
穴の開いた耳朶に感動しつつ、ピアスを差し替えようと何度も挑戦するが狙いが定まらない。
ピアスの先が引っかかり、穴はここか!と押し進めようにも緊張と少しの恐怖で手が震えて振り出しに戻る。
慣れとは凄い。ひまりは改めて実感している。

目が疲れた。オマケに苛立ちも加わり始めた。

一度、仕切り直しだ。

四つ葉のクローバーをモチーフにしたピアスを机に置いた。
気持ちを切り替えるために、カラーボックスの上に置かれたプレーヤーの再生ボタンを押すと流れ始める曲。

カサッ…


「あっ」


気付かぬうちに当たってしまったのか、プレーヤーの横に飾っていた二羽の折り鶴のうち、深い緑色の折り鶴が床へと落ちる。

お腹側を見せて舞い降りた鶴を拾い上げる時、気になるものが目に映る。

折り鶴の隙間から見える折り紙の裏側に何かが書かれているのだ。
もう一羽の薄い黄色の折り鶴の尾を持ってひっくり返してみるが、こちらは白紙のようだ。


「…なんだろう」


薄い黄色は杞紗、深い緑は燈路が作ったのであろう。
ならば燈路からの手紙…?

隙間から覗き見ようと片目を閉じて僅かに広げてみるが全く分からない。


折角折ってくれたものを広げるのもなー…。


悩んだ末に元の場所に戻そうかと思った時に杞紗の言葉を思い出した。

最近の燈路の様子がおかしい…と。


もしかしたら…あの時燈路がひまりに言おうとしていたことが書いてあるかもしれない。

ひまりは折り鶴を手に持ったまま再度机の前に座った。
もう一度同じように折り直せるように、丁寧に折り鶴を一枚の折り紙へと戻していく。

折り目が無数についてクシャっとヨレた折り紙を手アイロンで伸ばす。


「…?なにこれ?謎解き???」


不可解な文字列に首を傾げた。
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