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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


夾はひまりと手を繋ぎながらの帰り道、実は盗み聞きで知った事を話した。
別荘の時から知っていた事に目を見開いて驚きの声をあげるひまりに、お前から言われんの待ってたんだよ。と僅かに口を尖らせながら半眼で拗ねた。

その顔を見てブッとひまりが噴き出すと、笑うなと横に並ぶ背の低い頭を小突いた。

ケラケラっと笑うひまりが、ふと表情を無くす。

心の何処かで、もしかしてって思った。


——— ……お前


それに反応することはしなかった。
浮かれることもしなかった。
気付かない振りをして、夾の胸を借りて泣いた。

同じ…気持ちなんじゃないか?

その言葉に、優しく髪を撫でる様に、ギュッと握り返してくる繋いだ手に


"好きだ"と言われている気がした。


タイムリミットが存在するのに。



同じく夾も表情を曇らせていた。

縋り付いてくるひまりが、隣で笑うひまりが愛おし過ぎて、溢れ出す感情が止まらなくて。

遠回しに"好きだ"といったような物だった。

手をギュッと握ると大きな瞳がこちらを向いて、目を細めて笑った。


"幸せ"だと、思う。この瞬間が。

同じ気持ちなんじゃ無いかとさえ思ってしまう。


タイムリミットが存在するのに。



「ねぇ、夾はカブ好き?」

「あ?…別に嫌いじゃねーけど…なんだよ急に」

「由希の秘密基地で育ててたカブが食べ頃なんだってー。今日、カブの餡掛けでもしようかと思って」

「なんだそれ?美味いの?」


たわいも無い話をした。
お互いの感情を追求するでもなく、握り返す手の意味を聞くでもなく。

むしろ目を背けているかのように、何でもない話を繰り返した。


薄暗い空には小さな光の点が少しずつ主張し始めている。


日の入りが、本当に早くなった。

頬を撫でる風が冷たくなった。


「さむっ!今日は冷えるねぇ…」

「…そうだな」


夾は繋いだままのひまりの手を、自身のポケットへと導く。
そして指を絡めて手を繋ぎ直した。


「…ありがと。あったかい…」


気付かない振りをした。

絡めた指が離れないように握り返したことも。

少しだけ染めた頬の色も。


ひまりも夾も知らない振りをした。



未来に希望は無いけど


せめて今だけは…。
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