第9章 ホダシ
杞紗の言葉にひまりは以前、燈路が何処か言いづらそうに…だが何かを言おうしていたことを思い出す。
あの時はタイミング悪くはとりが迎えに来て、その先を聞くことは出来なかったのだが思い詰めたような表情だった。
俯く杞紗の姿に今すぐにでも問題を解決してやりたい所だが、燈路に会わないことには解決しそうにない。
ひとりでひまりに会いに来ようとしていたということは、居てもたっても居られなかったのだろうが、ひったくり被害にも遭ったばかりだ。
「じゃあ…診察終わりにでも燈路に会ってみるよ。杞紗は今日ビックリしたでしょ?家でゆっくり休んだ方がいいよ」
大人しく潑春に抱かれたまま不安げに唇に力を入れている杞紗の頭を優しく撫で、諭すように穏やかな声音で言う。
杞紗は少しの間を開けてコクリと小さく頷いた。
——— アンタさ…本当に…
あの時燈路は私に何を言いたかったんだろう。
その後の燈路の態度に特に違和感を抱かなかったので特に気に留めていなかった。
が、杞紗からの話を聞くと、あの時何か抱えていたのかもしれない。
追及しなかった自分自身に後悔する。
ひまりっ!潑春に呼ばれ、ハッとする。
飛んでいた思考を無理矢理引き戻して彼に視線を向けた。
本家への道のりを、1人で歩けると訴える杞紗を無視して抱えたまま歩き始めていた。
待って待って!と小走りで潑春の横に並ぶ。
診察が終わるまで本家で待つという選択をした潑春は、その旨を伝えて横に並ぶ彼女の歩幅に合わせて歩みを進める。
この感じだと晩ご飯ウチで食べて行くんだろうなぁと頭の片隅でひまりは思った。
「じゃあ俺、杞紗送ってくるから…とり兄のとこ終わったらウチに来て」
潑春の言葉の後に、手を振りながらお礼を述べる杞紗に笑顔で手を振り返し、夕飯の献立を考えながらはとりの診察室へと向かった。
杞紗を送り届けて、ひまりの診察が終わるまで部屋でゲームをしようと考えていた潑春に、使用人の女が呼び止める。
「潑春さん!探しておりました」
「…なに?」
潑春が立ち止まって振り返る。
何となく"嫌な予感"を抱きながら。
「慊人さんがお呼びなんですよ。ここの所塞ぎ込んでいて…お側にいて差し上げてください」
表情こそ変えなかったものの、的中した予感に心の中でため息を吐いた。