第9章 ホダシ
私、草摩ひまり!十七歳!!
今をときめく高校二年生っ!絶賛生理中!
生理中の朝の怠さったら無いよね!
もうイライラしちゃうし、ほんと全てを無に還したい気分っ!
え?今何してるかって?
ガチ鬼ごっこって所かなっ?
「待てゴルァぁあぁああああ!?!?」
短距離には自信があったが、長距離走は苦手分野だった。
オマケに終わりかけとは言え、今は生理中。
ひまりはこの鬼ごっこを長引かせるつもりはなく、持てる全ての力をだして全力疾走していた。
だが、相手も本気だ。
こちらの方が早さは上だが、そう簡単には距離は縮まらない。
速度が落ちない相手の体力を見ると長期戦は余りにも不利。
ヤバいかも…と思い始めた時、道の先にいた救世主にを見つけた。
「春っ!!!そいつ!!そいつ捕まえてぇ!!!!」
ひまりの叫び声に潑春は顔を傾け、走ってくる帽子を目深に被り片手に女物の鞄を持った男をその目に捉える。
「どけー!!」と走りながら拳を振りかざしてくる男に身を低くしながら避け、片足を突き出し、足を引っ掛けることに成功した。
全力疾走の勢いのまま地面に伏すことになった男は、どうやらその衝撃で意識を失った模様。
潑春は次に勢いよく走ってくる、指示を出してきたひまりに目を向けて右腕を横いっぱいに伸ばし、衝撃に備えて力を入れる。
「ゔっっ!!」
その腕はひまりの腹部にめりこみ、女らしく無い呻き声と共に彼女の全力疾走の勢いを吸収した。
「…へーき?」
「だ、大丈夫…助かった…ありがとう」
潑春の腕を軸に体を折り曲げ、項垂れたまま肩で息をしながら礼を述べる。
ひまりの息切れを落ち着かせるようにポンポンと背中を叩きつつ「アイツ…なに?」と問いかけた。
「あいつ…ひったくり…。杞紗の鞄…盗ったから…追いかけてて…」
細長い息を吐いて呼吸を整えながらもう一度潑春に礼を述べて、支えてくれていた腕から離れる。
それを聞いた潑春はポケットからスマホを取り出して警察に連絡を入れ、まだ整いきらない呼吸で鞄を拾い上げるひまりに向き合った。
「…危ないこと、ダメ。コイツがやばい奴だったらどうするの?」
「へーきへーき!私、足早いから!」
悪びれた様子の無いひまりに、潑春はグッと眉間にシワを作った。