第9章 ホダシ
お風呂から上がってきた由希が、黙々とお皿洗いを進めるひまりに「手伝うよ」とタオルを持って洗い終わったお皿を拭き始めた。
ありがとう。お礼を述べたひまりは、様子を伺うように視線を寄越す由希に気付かずにまた黙々と皿洗いを再開する。
あの態度からしてまず夾はあり得ない。
じゃあ由希…?いや、由希も距離感がおかしい時はあるが何だかんだでピュアだし平然としてられるとは思えない。
モブ生徒路線濃厚…?
それならもう特定の仕様がない。
……聞くか?
うん、それが一番手っ取り早い気がする。
軽い感じで、聞いちゃえばいいんだよね。
そうだよ!その手があった!
由希と夾に、私にチューとかしちゃったりした?って聞けば…
「何かあっ」
「ってンなもん聞けるかぁぁあ!?!?」
「ひまりーーー?!?!」
ハッと我に返って隣を見れば水浸しの由希。
どうやら右手に持っているコップに溜まった水をぶっ掛けたらしい。
「うわっ!ご、ごめ!ちょ!拭くものっっ!!」
前髪からポタポタと水滴を落とす由希の姿に、洗面所へとダッシュで向かいフェイスタオルを手に戻ってくる。
佇む由希の頭にふわりとタオルを被せ、身長差がある彼の頭に届くように爪先立ちでわしゃわしゃと拭き始める。
その様子に気付いた由希が僅かに腰を折ると、空気を踏んでいたひまりの足裏は床に戻る。
「ほんっとゴメンッ!お風呂上がりなのに湯冷めしちゃう…」
「ふふっ、大丈夫だよ。それより、俺に何か聞きたかったの?」
タオルの隙間から片目で視線を寄越す由希に狼狽つつ、えっとー…とひまりは視線を泳がせた。
ある程度水気が取れたのを確認してか、由希は折っていた腰を伸ばしてタオルを首にかける。
「そのー…保健室でさ、私が寝てる時…他にも誰か…来た?」
「いや、俺もチラッと見てすぐに生徒会室に向かったから…。あー、でも途中で春に会ってひまりは保健室にいるって伝えたから…行ったんじゃない?」
新容疑者浮上。
キョトンとした顔をしている由希にひまりはまた頭を抱えた。
だがすぐに、春はー…ないな。そんな事する訳ない。と謎の自信でその路線を棄却した。
未だにハテナを浮かべる由希に「夢落ちだから気にしないで!」と清々しい表情を向け、洗い物を再開し始めた。