第2章 おかえり
「女子の部屋に入る時はノックしなきゃダメだよー」
クスクス笑いながら本気ではない説教をする彼女に口元が緩んだ。
「ごめん。気をつけるよ。…具合はどう?」
コップをひまりに手渡し、ローテーブルにトレーを置くと由希もひまりの横に遠慮がちに、浅めに腰掛けた。
「ありがとう。迷惑かけてごめんね。もう大丈夫だよー。……なにこれ?ちょっとしょっぱい…?」
コップの中の透明な水をまじまじと見詰めながら聞くと由希がクスッと笑った。
「塩水。はとりがコレを飲ませろって。あと体を冷やせって言ってたから保冷剤持ってきたんだけど…」
顔色を見る限りある程度熱は引いてそうで、どうするかの選択をひまりに委ねた。
ひまりはうーんと悩んだ後に
「せっかく用意してもらって申し訳ないんだけど、遠慮しとくよ。まだちょっと頭痛があって…冷やすと酷くなりそうだから」
と、申し訳なさそうに微笑む。
「わかった。まだ本調子じゃないんだし、横になった方がいいよ」
由希は飲み干されたコップを受け取ると、ベッドに寝転がったひまりを確認してローテーブルにコップを置いた。
そして少し言いにくそうに言葉を紡ぎ出す。
「…ねえひまり…発作、でたんだって?」
横になり由希を見ていたその瞳が一瞬だけ見開いたが、すぐに困ったような笑顔を作る。
「もう…夾ってば誤解されるような言い方したなー。あれはちょっと気分悪くなってしゃがみ込んでただけで…ほんとそれだけなんだよ」
笑う彼女に対して、由希は表情を変えず、何の言葉も返さなかった。
夾のことは嫌いだが、曖昧なことを…特にひまりに関してのことで不確定なことをハッキリ言い切る奴ではない。
「ごめんね。勘違いさせちゃって。それにしても!!そんな話するなんて由希と夾って水と油かと思ってたけど、知らない間に仲良く…っ」
「誤魔化さないで。ひまり」
ひまりは溢れてしまいそうなほどに目を見開いた。
いつもよりもトーンを落とした声。顔の横には由希の右手首。目の前には整った綺麗な顔。そして全てを射るような濃いグレーの瞳。
これは所謂…床ドン。
いや、ベッドドン??
思いがけない由希の行動に驚きのあまり言葉が出てこなかった。