第9章 ホダシ
朗らかな秋空に浮かぶ綿飴のような雲。
暖かい陽の元で屋上の塔屋に寝転んでいる。
最高のサボり日和…の筈なのだが、浮かない顔をしたサボり生徒がひとり。
風に流され少しずつ形が変わって行く様をボーッと眺めていたひまりは、気怠げな表情で隠しもせずに盛大にため息を吐いた。
「ひまりがサボりって珍しい。…どうしたの?生理?」
「そうなの。今朝なった。しかも今回すごい重い」
隣で片膝を立てて座る潑春が問えば、隠す事も恥ずかしがることもせず「今日はいい天気ですね」ぐらいのノリで返ってくる。
潑春もそれに動揺することなく「あらま」と気の無い返事をした。
由希と夾ならばこうはいかないだろう。
というか、いかなかった。
今朝、いつもよりも痛みもダルさも格別な"女の子の日"にひまりは青白い顔でのそりのそりと猫背で起きてきた。
まるで生き返ったゾンビのような彼女に、ギョッとした顔で理由を聞く二人に同じように説明をした所、一気に顔が赤に染まり由希は謝罪、夾は喚き始めるといったカオスな状況になったのだ。
「添い寝、したげようか。…ハグ付きで」
「やめてよ。生理中に変身したら下が悲惨なことになるわ」
「……確かに」
ひまりと同じく青空を仰いだ潑春が薬を飲んだのか聞くと、飲んだが身体の怠さと眠気はある、と目を閉じてお腹の上に両手を置いた。
そんな彼女に潑春は制服のジャケットを脱ぎ、ふわりと掛けてやる。
まだ潑春の温かさが残るソレに目を開けて彼を見れば、黒いタンクトップ一枚になっていた。
「いや、いいよ。寒いでしょ」
「…寒そうに見える?」
「寒そうにしか見えない」
鍛えられた二の腕に鳥肌を立たせている潑春に、呆れながらジャケットを返そうと起き上がる途中で静止させられる。
「返されても…着ないけど。それでも、返す?」
以前にも潑春の所に泊まったとき、ベッドをひまりに使わせるようにワザと話を持っていった彼の事だ。言い出したら聞かない。今回もそうなのだろう。
返した所で、本気で着なさそうな彼の態度に短く息を吐き出し「じゃあ有り難く…」とソレで暖を取らせてもらうことにした。
「リン…来たんだって?」
「…うん、来たよ。すぐ帰っちゃったけど」
あまり嬉しそうではないひまりの雰囲気に、潑春は首を傾げた。