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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


大分慣れ親しんだ自身の部屋。
だが今は緊張で足がすくみ、ドアの前で立ち止まっている。
早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように、大きく息を吸って細長く吐いた。

一度拒絶された事がひまりをそうさせていた。

本心では無かったと確信しているが、本人の口から聞いた訳ではないので確定ではない。

押し寄せる不安感を手に力を込めて握りつぶした。


ドアを開けると敵意を含ませた目をした依鈴にひまりは一瞬怯んだが、ひまりの姿を確認した途端に吊り上がった目尻を下げる。


「ひまり…」


優しい瞳と声音にホッと胸を撫で下ろしドアを閉めた。
穏やかな雰囲気は束の間、依鈴はひまりに詰め寄ったかと思えば切羽詰まったように眉を潜めてひまりの両肩を掴んだ。


「ひまり、この家を出よう。一緒に遠くに逃げよう」

「え…?」


また昔みたいに笑い合いながらゆっくり話が出来ると思っていたひまりは、依鈴の言葉を理解するのに時間が掛かった。
歪んだ口元に笑みを浮かべ、その言葉を冗談として受け取ることが精一杯の返しだった。


「なに…急にどうしたの?リンそんな冗談言うタイプじゃないよね?」

「冗談じゃない、アタシは本気だ。今日はその為に来たんだ…。できれば早く、草摩の…慊人の手の届かない所に」

「待って待って!話が見えないんだけど…」


まだ口元には無理矢理作った笑みを浮かべている。
冗談であって欲しいと。「なんて嘘だよ」っていう言葉を期待するが、その願いを裏切るように依鈴の目は真剣そのもの。
ひまりの口元から笑みが消えていく。


「このままこの家に居れば…お前の幽閉を止められないんだよ!!絶対守る…何があってもアタシが守るから!一緒に逃げよう」

「リン…幽閉のこと…知って…?」


震える唇を抑えるように手で口元を隠した。

何故依鈴が知ってるのか…。
慊人以外は…知らない筈なのに。


「知ってる。全部知ってる。もう幽閉までの時間がないことも。…約束したんだ…絶対守るって…何があっても守るからって…」


悲痛な顔で、消え入りそうな声で絞り出すように紡がれる言葉達にひまりは疑問を抱く。


「誰…との…約束…?」

「………お母さん」


依鈴の言葉で脳裏に浮かんだ消えていた筈の記憶に、呼吸が止まった。
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