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ALIVE【果物籠】

第9章 ホダシ


「お前になんかあったらって…ビビった。花島が居なきゃ女相手でも何してたか分かんねー…」


大切な物を大切に想うような、熱を帯びた眼差し。

いやいや、それじゃあまるで…。


「こらこらー!女の子相手にキレんのは駄目でしょー。私なら大丈夫だったし」


これ以上深く堕ちるのは御免だ。
茶化して見ないフリをした。
私はこの恋を終わらせたんだ。


「お前がっ!!!」


急に大きな声をだした夾に、ケラケラと笑っていたひまりの肩が跳ねる。
切なげに眉を潜めてジッと見つめる夾の視線に縫い付けられるようで。

この先を聞いたらダメだと脳内では警告音が鳴ったのに、耳を塞ぎたくなったのに…出来なかった。


「お前がまた…急にいなくなったのかって…もうお前に会えないのかって…思ったんだよ一瞬」


怖かった…。小さく呟いた夾の言葉に目を見開く。

いやなんて顔してるの?
夾は透君が好きなんでしょ?
好きなんだよね?

透君だけにしか向けちゃ駄目でしょその顔。


ちゃんと蓋をしたんだ。
それを揺すらないで。


ひまりは夾の手を自ら離した。
彼の前に一歩踏み出し振り返ると、手を後ろで組んで悪戯な笑顔を浮かべる。
手を離されたこと、不安を露呈したのに茶化すような表情の彼女に夾は怪訝な顔をした。


「なーに言ってんのー!ほらほら早く帰ろーっ!ってか競争しよっか!私短距離は得意なんだよねっ」


「は?」と不服そうに声をあげる夾を無視して右手を左側へ真っ直ぐ伸ばし、左腕でそれを抱えるようにして引き伸ばす準備運動を始める。その逆も。
そしてアスファルトの道の繋ぎ目である線を爪先で叩きながら挑戦的な笑みで眉間にシワを寄せる彼を見据えた。


「ここがスタートラインねー。はい、位置についてぇー」

「待て待てっ!誰がやるっつったよ!?」

「よーーい…」

「人の話聞けよ!?」

「ドンっ!!」


夾の喚きを無視してひまりは勢いよく地面を蹴った。
無駄な感情を振り払うように、髪を宙に靡かせて。

走っていくひまりに愕然としたのは一瞬。

すぐに額に青筋を立てて同じく地面を蹴って追いかけた。


「っざけんな!待てコラ!勝手に始めてんじゃねーよっ!!」

「あははっ!こっわ!!」


ひまりは全力で走った。
沸々と再熱する感情が冷めるようにと。
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