第9章 ホダシ
例えば。
ミステリー小説やミステリードラマ等というのは、こちらも犯人を予測しながら進めるものだ。
それぞれの登場人物の行動や言動からある程度絞り込み、終盤に差し掛かる所ではだいたいひとりに絞っているものである。
絶対この人が犯人!と高を括っていたら、まさかのどんでん返しで愕然とした…という経験は誰しもがあると思う。
ひまりの今の心境はそんなものだった。
小説であれば冒頭に戻り読み直すことが出来るが、現実世界でそれは叶わない。
過去に戻る事は出来ないのだから。
だから頭を抱える。記憶を手繰り寄せる。
それでも、謎は解き明かされない。
あの後、咲から事情を聞き、由希親衛隊の仕業だと説明を受けひまりは「やっぱり…」と肩を竦めた。
そんな彼女達が咲から"お灸"を据えられたと夾から教えてもらい、心の底から彼女達の身を案じた。
そこから咲にお礼を言い、透にも巻き込んで申し訳なかったと再度謝罪をして教室を出た。
手を繋いだままのひまりと夾を見て、透はまた聖母のような微笑みを二人に向けていた。
あの屋根の上で終わらせた筈だった。
陳腐な賭けをして、無理矢理諦めた。
二度とこうして手を繋ぐことも、この溢れ出る感情に苦しむことも無いと思っていた。
もう終わらせたんだから。
それなのに何だこの有り様は。
手を繋いだまま、薄暗い道を照らす街路灯がつき始めた帰り道を歩いていく。
「だいぶ遅くなっちまったなー」
夾は気怠げにその役目を果たし始めた街路灯を見上げた。
見上げた時に光が当たった彼の長い睫毛がキラキラと煌めいた気がした。
ヤバイヤバイ。
滅茶苦茶フィルターかかってる。
睫毛が光る訳がない。
心の中で嘲笑った。
自身の決意の脆さに。
恋心の厄介さに。
「まさかの展開だったよねー。夾も付き合わせてごめんね?」
平静を装う。
精一杯の足掻きだった。
「マジであのクソネズミの糞はやる事えげつねぇな。正直、花島がいなかったらどうなってたかと思うわ」
「なんで花ちゃん?」
ひまりの問い掛けに夾は繋いだ手に力を込めて立ち止まった。
ガクンとひまりが少し体勢を崩して振り返る。
夾の真剣な眼差しに捕らえられて呼吸の仕方を忘れたように、息が止まった。